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* * *
「あ、早乙女くん買い出しありがとー」
「うっす」
チェリッシュへ戻ったツカサは、キッチンの出窓から、女性スタッフへ買ってきたシナモンパウダーを渡す。
「店長がキッチンの日はシナモンかけすぎてなくなっちゃうんだよねー。助かったよ」
「……店長は?」
ツカサは空いている店内をキョロキョロと見回した。
スタッフは持っていたトングの先で、店の外を指し示す。
「空いてるからチラシ配りに行くって外に出てったよ。でもあれだね、チラシは口実で本当は女の子引っかけに行ったんだと思うな。外で声かけてたもん」
「へえ。暇なんすかね」
「あ、声かけられてた人、前に早乙女くんに会いに来てた女の人だったよ。ご近所さんだっけ?」
「……え」
カトラリーを拭いていたツカサは、フキンの動きを止め、呆然とスタッフを見る。
「店長、絶対あの人のこと気に入ってるよね。いつもお店の前通るとわざわざ出てって挨拶してるもん」
「……で。さっき比菜子に声かけて、どうなったんですか」
「一緒に歩いてったよ」
ピリッと目蓋が揺れたとき、スタッフは入口に目をやり「あ、店長帰ってきた」とつぶやいた。
ツカサは眉根を寄せたまま振り向き、「ただいまー」と入ってくる店長を睨む。
「ありがとうねツカサくん。……て、すごい顔だね。どうしたの? ご機嫌ナナメ?」
「店長が早乙女くんにおつかい頼んでナンパしに行ったから怒ってるんですよ」
「ああ! それかぁ。ごめんね」
おどけたやりとりに場は和むが、ツカサだけは怒りのオーラを纏ったまま。
「……比菜子になにしたんすか」
「ん? アパートまで送ってあげただけだよ」
「アパートまで!?」
ツカサが声を荒げたため、不穏な空気を察したスタッフは「あれ? もしかして修羅場?」と苦笑いをする。
「家までついてったんすか!?」
「うん。だってもう暗いし心配でさ。荷物持ってたし。彼女はツカサくんの大事なハニーだもんね」
戸崎は小指を立ててウインクをする。
「……本当にそれだけっすか?」
「うん。あ、でもさ、比菜子ちゃんアパートにひとりじゃないじゃん。帰るとき、後からもうひとり男の人とすれ違ったよ。たぶん、その人もつぼみ荘に行ったように見えたけど」
「……は?」
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