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(え! ツカサくん帰ってきた!?)
慌ただしく体を起こした。
玄関ではまだゆっくりと靴を脱ぐ音がしている。
その音に焦らされるように心臓が鳴り出し、混乱する頭の中では最初の言葉を探し始めた。
(私と会うために帰って来たのかな……それとも、まさか別れ話……?)
怖くなり、再度布団にくるまった。
今度は頭まですっぽりとかぶり、壁際を向いてドアに背を向ける。
いつもは「比菜子」と声をかけてくるが、この日は黙ったまま、ドアがノックされた。
「……お、おかえり。……鍵開いてるよ」
ツカサがいるために鍵をかけなくなった癖がそのままになっている。
ノブに手をかけられたのを感じるとともに、ただならぬ空気が伝わってくる。
深刻な話が始まる予感がし、比菜子は布団から出られなくなった。
このまま耳を塞いでしまいたくて目をギュッとつむり、体を硬く丸める。
すると、次はドアが開く音がした。
中に入ってきたはずの彼がなにも言ってくれないことに絶望的な気分になる。
「ねえ……私、なにかしちゃったのかな……? 」
かすかな足音がやっとカーペットを歩きだし、ベッドへと近づいてくる。
「……お願い……なにか言って……」
足音はすぐそばまで迫っている。
祈る気持ちで頭をずらし、ベッド際に目をやった。
(……え……?)
見たことのない、青いくつ下の足がある。
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