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ルール、その一。
いつでも部屋に来てよいが、寝るときは来客用の布団を借りて自分の部屋で寝ること。
その二。
朝食は比菜子の出社時間に合わせて一緒に食べること。
その三。
夕飯がいらないときは、事前にきちんと連絡すること。
***
「おはよう!」
「お……ッス」
翌朝、決めた時間に比菜子の部屋へやってきたツカサを、彼女は満面の笑みで迎え入れた。
ツカサは昨日急いで比菜子が買いに走った黒いパーカーとカーキのカーゴパンツを着用しており、両太ももの外側に付いている大きなポケットが気に入ったのか、スマホや財布などをしまいこんで膨らませていた。
「朝ご飯、食べちゃって。私あと三十分で出るからね。熱がないなら今日は必ずバイト探してくること! 金髪オーケーのところにするんだよ。やる気ありますってアピールすれば、ツカサくんなら絶対大丈夫」
テーブルについたツカサにご飯やらお味噌汁やらをパッパと並べた比菜子は、自分の分を一瞬でたいらげて流しに放った。
持ち物を整理しながら歯を磨き、バッグの中のミラーを手に持ちリップをひく。
「ツカサくん?」
比菜子は忙しなく準備を進めながら、鏡越しに喋らないツカサを見た。
彼は鏡に気づいたが、頬を染めてモグモグと誤魔化し、視線を逸らす仕草をする。
「なんか……比菜子、昨日と全然違ぇから」
今朝の比菜子は、体にフィットした白いブラウスをきっちり中に入れ、クリーム色のスカートは華奢なベルトで留めている。
髪も上品なクリップでひとつに留め、綺麗なうなじの形が丸見えだった。
意識せずにいようと目を泳がせるツカサだが、部屋の中を動き回る比菜子のストッキングの脚をチラチラと見てしまう。
「こう見えても一応OLですから、出社するときくらいはきちんとするんですー」
比菜子は手際よくお弁当を手提げに入れ、冷蔵庫の中のお茶を水筒へ注ぐ。
ジャケットを羽織り、カバンには室内用のカーディガンを予備で入れた。
すべて整うと、彼女はこんなところに住んでいる貧乏OLには思えないエレガントな仕上がりになる。
「ツカサくん? なにじろじろ見てるのよ。ちゃんとスカート丈も膝まであるでしょ? オバサンいつも脚出してるわけじゃないんだからね」
初日のやりとりを思い出し、比菜子はバッグで膝から下を隠した。
「べつに比菜子はオバサンじゃねーだろ」
(はぁ!?)
「初日にオバサン呼ばわりしてきたのはどこの誰よ!」
「あんなの本気じゃねぇよ。比菜子は脚出してても、べつに全然、大丈夫だし」
(なんっ……)
大真面目な顔でそんなことを言う彼に、比菜子は口をパクパクさせる。
(ど、どういう意味!? いきなりなんのつもりなのツカサくん!)
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