第2話 ぷち同居開始

6/8

254人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ
「浅川さんはうちのアプリの『へるすた』って、使ってる?」 「ええ。もちろんです」 ちょうどまだバッグをデスクの上に置いていたため、内ポケットからスマホを抜き取った。 ホーム画面にある、黄緑の背景に白の線で描かれたフォークとスプーンという、シンプルなアイコンを篠塚へ見せる。 「毎日使ってますよ、私」 ヘルシーネオが最近開発した『へるすた』は、毎日の食事や運動、睡眠と健康に関わるライフスタイルの記録ができるスマホアプリである。 食べたものを入力することで摂取カロリーや不足している栄養素を計算したり、トレーニングによる消費カロリーを算出できる。 (社員なんだから使わなきゃと思ってダウンロードしたけど、これのおかげで健康に気を遣えてる。貧乏人でも健康は保てる、そう教えてくれたなかなか優秀なアプリなのよね) 「それが、なにか?」 「『へるすた』のダウンロードが好調でね、社でそれと連携できる新商品『へるすウォッチ』を開発中なんだ」 「『へるすウォッチ』?」 篠塚は、左上をホチキス留めされたA4用紙三枚の資料を比菜子へ手渡す。 表紙には、四角いタッチ画面のついた、腕時計のイメージ画像が載っている。 「一見すると腕時計なんだけど、埋め込まれているセンサーで体内の様々な数値を計る機能がついてるんだ。これを『へるすた』のアプリと連携させると、AIがより詳細なアドバイスをくれる」 比菜子は思わず、「すごーい!」と資料を覗き込んで騒いだ。 「で、今、この『へるすウォッチ』を毎日着けて、アプリとの連携データを提供してくれるモニターを募集してるんだ」 「あ、私にそのモニターをしてほしいということですか?」 「いや、今回の対象は社員以外なんだ。社員の家族でもいい。しかし毎日記録するのが大変だからなかなか集まらなくてね。誰か心当たりはないかな?」 「うーん、心当たりですか……」 (たしかに毎日記録するのは大変だし、友達にも頼みにくい。かといって両親はアプリ使わないしなぁ……) 「一応、各課ごとにモニターのノルマがあってね。うちは浅川さんと僕とで誰かひとり集めなければならないんだ」 「課長には誰か心当たりあるんですか?」 「それが……妻は医療関係だから手首にこういうものは着けられないし、娘たちもまだ中学生だから」 (そうだよね。課長の身内で探すのは難しい。誰か頼みやすい人……頼みやすい人……あ) 比菜子の脳裏に、とある人物の顔が思い浮かんだ。 「私、ひとりだけ心当たりあるので、今日にでも当たってみます」 「本当に? すまないね、ありがとう。浅川さんは協力的だからつい頼りにしてしまうよ」 篠塚の大きな手が比菜子の肩に置かれると、彼女はポンと胸を叩いてみせる。 「いえ! 任せてください課長っ」
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

254人が本棚に入れています
本棚に追加