第3話 夜のデートへ

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* * * 金曜日。 スマホを耳にあて、比菜子は仕事帰りのオフィスカジュアルのままシンクに寄りかかっている。 「だーかーらー、そんなのお母さんが勝手に妄想してただけでしょ? 上京したらイイ男連れてくるなんて私はひと言も言ってないのに」 『だって恋人のひとりも見せに来ないんだもの。ねえ、こっちで誰か探したらどう?』 「東京で仕事してんのに無理に決まってるでしょ。だいたい、私なんて誰ももらってくれないよ」 (貧乏だし、恋愛下手だし) 『そんなことないわよ。昔は美少女だって町の有名人だったのよ?』 「んもう! それは幼稚園のときの話でしょ!」 団地から少しだけレベルアップした中古の一軒家で暮らす両親、とりわけ思ったことを口に出すタイプの母親の呑気な顔が思い浮かび、比菜子は通話を切った。 ため息をつきながらふとカレンダーを見上げると、今日の日付の欄に【昼夜シフト 夕飯なし】と書かれている。 (……ツカサくん、今日は夜までかぁ) とりあえずジャケットを脱いでハンガーに掛け、ブラウスを緩めて座椅子に座る。 改めて見ると、カレンダーは彼のシフトでびっしりと埋まっている。 (ツカサくんって、けっこうマメなのよね。なにげに字も上手いし。さすがお育ちがいい猫) 部屋着になろうと髪のクリップを外し、衣装ケースの中のTシャツを探す。 すると、最近はまったく着なくなっていたシャツワンピースが手に引っ掛かった。 それを出して広げ、ジッと真顔で考える。 (……ツカサくんいないのに、夕飯作る気しないな。今までどうやって自分のためだけに作ってたんだろう) 『そんなこと言ってくれるの、比菜子だけ だ』 彼の笑顔が、脳内を巡る。 (……なんか、会いたいな) 比菜子はワンピースを手に取った。
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