第3話 夜のデートへ

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ツカサは唇を彼女の耳に寄せ、 「……でかい声じゃ言えねぇんだけどさ」 と、吐息がかかる距離で小声で話す。 「な、なに?」 (近い近いっ) 平静を装う比菜子だが、突然の接近に体は硬直する。 不自然に肩が上がったまま、ツカサの言葉に耳を貸した。 「ここで食ってっていいのか? 言っとくけど、比菜子の飯のが数段美味いぜ」 そう囁かれた瞬間、比菜子の頬は熱くなり、思わずそこを乙女のように両手で押さえる。 (う、うそっ……! うれしいっ……) 「あ、ありがとう。でも今日はツカサくんを見に来たの。ご飯はついでだよ」 注文をとってもらったら、すぐに「ほら行って行って」と彼の背中を押し、キッチンへ戻るよう促した。 (はぁー……やばい。狙わずにあんなこと言うんだもん。ツカサくんのファンになりそうだよ……) 離れていくツカサのエプロンの結び目を見ながら、比菜子はわき上がる火照りを落ち着かせた。 それから五分後、わずかに混雑したためツカサは忙しくなり、別の店員が「お待たせしました」とパスタを運んできた。 男性だが真っ黒な直毛の髪を後ろで一つに束ねており、アジアンティックな雰囲気がしている。 (お洒落な男の人) 「ありがとうございます。美味しそう」 三十代後半くらいで毒がなく優しそうに見えるが、比菜子は彼の胸のバッジに小さく書かれた『店長』の文字に気づく。 (ツカサくんのことよく怒ってるって人かな) 比菜子がついジッと彼を見ていると、店長はその視線に笑顔を返した。 「ご来店ありがとうございます。店長の戸崎(とさき)といいます。ツカサくんと話してらっしゃいましたが、お知り合いですか?」 (わ! 物腰も声も柔らかくて大人っぽい。この人もファン多そうだなぁ) 「あ、はい。近所に住んでるだけですけど、気になって来ちゃいました。お仕事の邪魔しちゃっててすみません」 「とんでもない。ツカサくんはよく頑張ってくれていますよ。是非ゆっくりしていってください」 「はい。ありがとうございます」 綺麗なお辞儀をしてキッチンへ戻っていく戸崎を見送ってから、比菜子はフォークに巻き付けたパスタを口へと運んだ。 (……充分美味しいじゃん)
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