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それから二十分が経ち、午後八時。
キッチンから「お先失礼します」というツカサの声がし、私服に着替えた彼がカウンターへ戻って来た。
「比菜子、あがったぞ」
パーカーにカーゴパンツの見慣れた私服だが、まっすぐ歩いてくる彼に比菜子はトクンと胸が鳴る。
「お疲れさま」
まだクリームパスタが三分の一ほど残っている。それとは別に、ツカサの持っているトレイから温かいパスタの香りが漂っていた。
(バター醤油のいい匂い!)
「美味しそう。まかない?」
「おう」
キノコと海苔の和風パスタとお冷の乗ったトレイを比菜子のトレイの隣に置き、続いてツカサは当たり前のように、彼女の右隣の席に座る。
(やだ、緊張する。いつもは向かい合って食べてるのに、今日は隣合ってるから……)
比菜子が視界の隅で揺れる金髪にドキドキしていると、ツカサがパスタにスマホを向け、カシャッと音を鳴らす。
(料理撮ってる。かわいい)
比菜子が心の中でそうつぶやいたとき、背後のテーブル席の女性たちも「料理撮ってる。かわいい」とまったく同じことを口に出して騒ぎだした。
それとともに、「隣にいるの誰だろう? 彼女? 」と比菜子にも注意が向けられる。少しの敵意も混じっていた。
「いやー彼女じゃないでしょ。ジャンル違すぎ」
もうひとりはそう答える。
(聞こえてるっての! どうせ彼女には見えないわよ! 強いていうなら保護者です、保護者!)
比菜子はわざと保護者らしい顔つきを作り、微笑ましくツカサを見守るフリをする。
「なあ、食ったらどうする? どっか行く?」
比菜子はパスタを詰まらせて咳き込んだ。
「え、普通に家に帰るつもりだったけど……」
「なんだよ、明日休みだろ? 俺も明日昼からだし、少しだけど給料入ったからどっか行きたいところあれば言えよ」
「……え、なにそれイケメン」
「からかうなよっ!」
(嘘でしょ? こんなキラキラ大学生とデート?)
「ありがと。でもここに来てツカサくんが働いてるところ見られただけで満足だよ」
「遠慮すんなよ。なんかあるだろ? ボーリングとか、カラオケとか」
「いや無理ですっ! 無理無理無理……」
六歳の年の差を感じるワードがと飛び出し、比菜子はひきつった顔で大きく首を振った。
ツカサはさすがにムッと口を尖らせ、
「なんでだよ」
と不貞腐れる。
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