第3話 夜のデートへ

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比菜子は湯に肩まで沈みながら目を閉じた。 (誰かと来るって、こんな感じなんだなぁ) うっとりと、温かな幸せに浸る。 (ああ、なんか、満たされる──……) * * * 四十分後、約束どおり落ち合った。 「お待たせ」 「おう」 入り口ののれんの外で待っていたツカサは半乾きの髪がしっとりとし、ふわりとした形がサラッとなめらかになっていた。 「どうだった?」 「スゲーよかった……」 ツカサは比菜子と同じく、うっとりと遠い目をする。 「実家でも風呂ってあんま浸からなかったけど、いいな。銭湯……たまに来たい」 「うん。また一緒に行こうよ」 即答した比菜子にツカサは頬を赤くするが、外は暗くて彼女は気づかない。 外にある紙パックの自動販売機で、今度は比菜子が「どーぞ」とフルーツ牛乳を奢る。 「サンキュ」 「飲んで帰ろ」 暗い路地を並んで歩く。 低い建物の間の上空に、星と月が見えている。 「オリオン座はっきり見えるようになったね」 頭をもたげ、三つ並んだ小さな星を指差すと、ツカサも顔を上げた。 「そうだな」 少し開けた場所へ出ると、圧倒的な夜空が広がる。ストローを咥えたふたりは一瞬見とれ、立ち止まった。 「……俺、バイトでさ」 ふいに、ストローから唇を離したツカサは、星空を見上げたまま話し出す。 「ん?」 「バイトで、トイレ掃除とかやるんだよ」 「そうなんだ」 「やったことなかったし、やりたくなかった。でも怒られてやらされて、できるようになった。今までも俺が使ってたトイレは誰かが掃除してたんだって思うと、やらなきゃって思う」 「……うん」 (偉い。泣きそう) 「他にも、いずれキッチンも入れって頼まれてるから、料理も少しはできるようになると思う」 比菜子はウンウンと相づちを打った。 「そっか。バイト始めてよかったね」 「それもそうだけどさ。……そうじゃなくて」 ツカサは彼女に、向き直る。 比菜子もそれに気づき、「え?」と疑問を浮かべながら隣に体を向けた。 「比菜子に会ってから、すげぇいいことづくしだなって話だよ」
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