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比菜子は便箋をペラペラと揺らし、「ほぉ」と眉をひそめる。
「すごいねぇ店長さん。営業熱心な人だ」
(こりゃ女たらしなんだろうなぁ……)
ツカサはすかさず横から便箋を奪い、「店長のヤツ妙なマネしやがって!」と毛並みを逆立てる。
「まあまあ。私は貰えてうれしかったから、お礼言っておいて」
完全に手柄をとられた形となったツカサは悔しそうに唸りながら、カレーの鍋を温め出した比菜子をうしろから睨む。
いつもスカートの中にしっかりと入っているブラウスは外へ出ており、緩んだ格好になっていた。
「おい、比菜子」
「んー?」
「俺もなにかしてやるから、して欲しいこと言えよ」
(えっ!?)
脅しのような剣幕でされた甘い提案に、お玉がピタリと止まる。
「な、なに。急に。なにもないよ」
「あるだろ。掃除とか洗濯とか、どっか行きたいところとか」
(掃除洗濯をツカサくんにしてもらうのはさすがに恥ずかしい……)
「あー……そうだね、じゃあ、仕事でけっこう肩とか腰とか凝ってるから、また一緒に銭湯にでも……」
「体凝ってるのか! よし! じゃあマッサージしてやる!」
「えぇ!?」
驚いて今度はお玉の持ち手が鍋の縁に落ち、カランと音が鳴った。
(マッサージ!?)
「ベッドに横になれよ」
そう言って目をキラキラさせながら親指でベッドを指差すツカサに、比菜子は心臓が暴れだす。
深い意味はなさそうなあどけない表情をしているが、その顔は紛れもなく美男子で、そばへ寄って「ほら」と差し出された手も骨が張っていて意識せざるを得ない。
「い、いいよっ、恥ずかしいから……」
「なんで恥ずかしがるんだよ、ただマッサージしてやるって言ってるだけなのに」
腕を取られ、グイグイ引っ張られる。
(ツカサくんは純粋に善意でマッサージをしてくれるつもりで……これって意識しちゃう私がおかしいの!?)
「ほら、寝ろよ。気持ちよくしてやるから」
(言い方!)
ゴクリと喉が鳴る。
(落ち着け、比菜子……ツカサくんは私のことなんとも思ってないからこんなことできるのよ。ムキになって断ったら逆に意識してるみたいだし、ここは大人の余裕を……)
「…………わ、わかった。お願いします」
スカートのホックを緩め、めくれないように整えながら、比菜子はうつ伏せになった。
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