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真っ白で可憐なお嬢様は、表情の固まった比菜子の変化を見逃さず、おもしろそうに目を細める。
覗き込まれているのがわかっているのにショックを隠すことができない。
有沙はそれを見てさらに微笑み、
「オバ様、もしかしてここでツーくんのお世話係をしてくださっているんですか? ツーくんひとりじゃなにもできないから、きっと大変ですよね。婚約者としてお礼を言います。ありがとうございます」
と、軽やかな口調でさらに追い詰める。
「……そんなことしてないです。私はただ……」
「でも、あとは婚約者の私がツーくんを引き取るので大丈夫ですよ。こんなところには住まわせておけません。変な病気になってしまいますもの」
「あのっ……」
「それに、誰かさんが勘違いをしてしまったら可哀想ですし」
有沙の言葉、視線は、はっきりとした敵意に満ちていた。
比菜子は言い返せず、それどころか婚約者がいるとも知らずにツカサとあれこれしていた自分が恥ずかしくなる。
(なに傷ついてるのよ、私……)
彼を部屋へ招き、料理を振る舞い、風呂へ誘い、そしてベッドで浮かれていた最近の出来事が、から回った思い出として次々に思い起こされる。
(保護者だって言い張っていたのに、ツカサくんにそれ以上を求めそうになってた。私って本当にバカ……)
彼女の目じりに、じわりと涙がにじむ。
みじめで消えてしまいたい。そんな感情に押し潰されそうなときだった。
「比菜子? 」
比菜子の背後の方向から、バイト帰りのツカサがやってきた。
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