第4話 婚約者は突然に

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「……ツカサくん」 ツカサは顔色の悪い比菜子を見て眉をひそめたが、彼女の正面にいる人物に気づくとパチパチと目を開いた。 「なっ!? 有沙!?」 「ツーくん!」 挑発的だった有沙の声はとびきり甘いものへと変貌し、眉を垂れ下げた少女のような顔つきへと変わる。 「やっと会えたー!」 「なんでここにいるんだよ!」 比菜子を挟んで五メートルほど距離があったツカサに一目散に駆け寄り、「心配してたんだよ!」と抱きついた。 「おわっ! ちょ、オイ! 有沙!」 若いカップルのツーショットに比菜子の胸はまたズキンと痛み、思わず彼らに背を向け、オンボロアパートを前に切なくなった。 (学生同士、お似合いのカップル。……こんな婚約者がいるのに私の部屋に出入りしてたなんて。なに考えてるのよ、ツカサくん) 悔しさでバッグの持ち手が音を立てる。 ツカサへの苛立ちが止まらないが、それを飲み込んでうつむいたまま、地面を睨んだ。 「有沙、お前比菜子となに話してたんだ? 失礼なことしてないよな? 世話になってる人なんだから変なこと言うなよ」 (どの口が言ってるの) 「言ってないもん」 (めちゃくちゃ言ってたわ) 「比菜子」 突然名前を呼ばれ、比菜子は「へっ」と間抜けな声を漏らした。 もうアパートへ入ってしまおうかと一歩踏み出していた足を慌てて戻し、余裕があるフリをして振り返る。 「これ、幼なじみの有沙。俺の一個下」 ツカサは、親指で有沙を示した。 (幼なじみ……) 〝婚約者〟と言わなかったツカサを、比菜子は再び不信感の募る目で睨む。
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