第5話 ショックの嵐

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第5話 ショックの嵐

「はぁー……」 仕事中、パソコンのタイピングは止めないまま比菜子は大きくため息をついた。 あれから時間が経って落ち着いてきたものの、自分の選択が正しかったのか疑問が残る。 (いくら家出中っていっても、婚約者のいるツカサくんを私の部屋に住まわせるのはダメだよね。秘密にしてくれって言われたけど、このままでいいわけない) 昨日のふたりを思い出し、ついにタイピングを止め、目を伏せる。 (……また都合のいい女になってる。ツカサくんがこんな私を褒めてくれるから勘違いしてた。本当はただ利用されてるだけなのに) 数値の入力が中途半端なまま気落ちしていたところで、ちょうど彼女の肩に大きな手が置かれた。 それとともに「浅川さん」という低くやわらかい呼び声が聞こえる。 「篠塚課長……」 背後に立っていた篠塚は、顔色の悪い比菜子を「大丈夫?」と首をかしげて覗き込む。 比菜子は「すみません、大丈夫です」と返事をし、椅子ごとうしろを向いて「なにか?」と要件を尋ねる。 「浅川さんが紹介してくれたモニターさんなんだけど、とても貢献してくれているみたいでね。企画部からお礼を言われたよ」 「……え!?」 すぐにツカサのことだとわかった比菜子は立ち上がる。 篠塚は持っている資料を彼女に渡し、折れ線グラフの書かれたそれを人差し指で指し示した。 「へるすウォッチに記録されている運動量が格段に伸び、筋肉量も増加している。スキマ時間に細切れに体を動かしているのと、拭き掃除などの家事で効率よく運動しているみたいだね」 運動量、筋肉量がともに大きく伸びたグラフを食い入るように見てみると、そのどれもがぐんといい方へ変化している。 (バイトの行き帰りで運動したり、家の拭き掃除とかをちゃんとやってるんだ。たぶん、私がやってるのを見て……) 「それにバランスのいい食事の写真もほかのユーザーから注目されている。イイネもコメントも多いし、日記には毎回高評価が付く。写真のスプーンにうっすらシルエットが写り込んでいたみたいで、正体が金髪の男の子だとわかりユーザーの女性たちにアイドル的な人気もあるんだ」 資料に書かれたお気に入りユーザー数、イイネ数、コメント数も見たことがない数字になっている。 比菜子の料理にツカサのピースサインの手が写り込んだ写真にはたくさんのイイネが付いており、彼女はあんぐりと口を開けた。
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