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「紹介してくれた浅川さんにも謝礼手当てが出るって。あと、お礼に関連会社が運営するフィットネスジムの無料券をもらったよ。モニターさんを誘ってぜひ行ってみてね」
「は、はい……」
ヘルシーネオの子会社である『株式会社ネオフィット』のジム利用券を二枚渡され、それを呆然と見つめる。
「社として、彼にアプリ上の広告塔として協力してもらうことも視野に入れているらしい。これからも注目しているから、ぜひよろしくと伝えておいて」
「……わかりました」
(ツカサくんって……すごい)
財布にしまった無料券を思い出しながら、仕事終わりの比菜子は電車に揺られていた。
(一緒にいるといいことづくし、か……。以前ツカサくんがそう言ってくれたけどお互いさまなのよね。仕事にも協力してくれてるんだし、これ以上を求めるほうが贅沢なのかも)
最寄り駅へ到着すると、遠目に『チェリッシュ』が見える。
そういえば今日はツカサは夜シフトのため夕飯はいらないのだ、と思い出した比菜子は、なにを買って帰ろうかとスマホを取り出しレシピの検索を始めた。
するとちょうど、メッセージの着信音とともに画面に【ツカサくん】と表示され、ドキンと胸が鳴る。
(なんだろう)
すぐにメッセージを開いた。
【今日は夜シフトだけど、バイト先来るなよな】
今度は重苦しくズキンと鳴る。
(どうして? 私と勘違いされたくないから見られたくないってこと?)
納得しかけていたところへまたショッキングな言葉をかけられ、比菜子の心は再び陰っていく。
ここまで言われたらチェリッシュへ顔を出す勇気はなく、もともとそのつもりもなかった。
しかしツカサがどんなつもりでこのメッセージを送ってきたのか、気になって背を向けることができない。
(……いいもん。通り過ぎて、コンビニに寄ろう。今日はコンビニ弁当でいいや)
通り過ぎるだけ。そう言い聞かせながらチェリッシュの通りへと一歩を踏み出す。
ガラス張りの外から絶対に中を見てはならないと念じたのに、通りかかるとつい視線は店内へと向いてしまった。
(……え)
嫌な予感は当たった。
見たくなかった光景がそこにあった。
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