第5話 ショックの嵐

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振り向いた比菜子をジッと見つめる戸崎は、予想通り涙していた彼女に気づき、また一歩そばへ寄る。 「やっぱり。店内から姿が見えたので追いかけてしまいました。……なにか悲しいことでもありました?」 「い、いえっ、すみません……なんでもないんですっ」 涙を指でかき消そうとしていると、目の前に戸崎が差し出した紺のハンカチが現れる。 「使ってください」 「……店長さん……」 優しさの意図はわからないが、傷ついた比菜子の心に今はじんわりと沁みわたる。 素直にハンカチを受け取り、角で涙を吸いとった。 「比菜子さんが泣いていると僕も悲しくなります。……あ、勝手にお名前ですみません。ツカサくんがそう呼んでいたので」 「いえ! それは、全然……。すみません恥ずかしいところを見せてしまって……。ハンカチは洗って返しますね」 「そのままでいいですよ。あの、よければお家まで送りましょうか? なんだか心配なので」 「え!? そんな、店長さん、それは大丈夫ですから!」 単純な恥ずかしさから遠慮したが、すぐに自分の家がボロアパートだと思い出して首を大きく振って断固拒否する。 「そうですか?」 「はい! いつもひとりで帰ってますから!」 「ひとりで? それは危ない。比菜子さんすごくかわいらしいから誰かに狙われそうだ」 「へ!?」 穏やかな笑顔のままそんなことを言う戸崎に、比菜子は一歩後退りをした。 (ダメダメ! わかってるんだから! この人軽い気持ちで言ってるだけだって!) わかっていても、渡されたハンカチや彼の聞き心地のよい言葉には、傷ついた心をスッと癒すような力があった。 「あの、て、店長さん……」 「さ。行きましょう」 差し出された戸崎の手をしばらく取らずにいると、やがてその手は動き、宙で迷っている比菜子の手に向かった。 (すく)い上げるように指先同士が触れ、拒否できずに握り合ってしまいそうになる。 (……ダメだ……なんか、拒めない……) そのとき── 「触んな」 パシンと音を立て、彼女の手は間を割るようにして伸びてきた別の手に取られた。
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