第1話 ツカサくん襲来

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視界から消えるかと思っていた彼にいきなり距離を詰められ、比菜子はノブを握ったままのけ反る。 「ちょっと危ないでしょ! 出ていきなさいよ!」 「アンタこそ急に閉めんなよ! 聞きたいことはまだあんだよ!」 (なにコイツ! イケメンじゃなきゃ通報してる!) 挟まれて縦に潰れた顔でもイケメンで、比菜子はポテンシャルに圧倒された。 さらに力を入れてドアノブを引くが、挟まっているツカサは体の力でそれを引き戻そうとする。 (ドアノブが引っこ抜けちゃう!) 比菜子はついにあきらめて力を緩めた。 腕を前で組み、横の壁にもたれかかってツカサを睨み付ける。 「……なによ聞きたいことって」 ツカサもムスッとした表情で見据えるが、少し語気を弱め、 「……ここでどうやって暮らしてんのか教えろ」 と、子どものように不本意そうに顔を背けた。 「はあ?」 「狭いし、汚ねぇし。人が住めたもんじゃねぇだろココ。だいたい風呂がない。トイレの隣にシャワーがある。意味がわかんねえ。どうなってんだ」 (いやアンタがどうなってんの) 「契約してから今更なに言ってんのよ」 「中は見なかったんだ。大学に近くて家賃が三万のところがここしかなかったんだよ」 「なら我慢しなさい。家賃三万で駅まで徒歩圏内、トイレもシャワーもあって広さも五帖ある。三万以上出せないんじゃ都内にはこれ以上の物件はな、い、の」 「……マジかよ……」 ツカサは〝絶望〟という顔をし、崩れ落ちた。 「嘘だろ……? こんな狭くて汚ねぇところじゃ眠れねぇし、飯も食えねぇし、風呂も入れねぇ。どうやって暮らせっていうんだよ……」 比菜子は、美男子がいきなり嘆きだす様子が少し面白くなった。 そして、玄関からビーズののれんで仕切られ隠されたこの部屋に限っては〝人が住めたもんじゃねぇ〟という状態ではなくDIYし尽くした快適なお城が広がっていることを、自慢したくてたまらなくなった。 「それなら、暮らせるように自分で変えればいいのよ」 玄関ののれんを分けて束ね、中を手のひらで指し示す。 ツカサは目の前に広がった光景に、長いまつげをパチパチさせた。 「これ、アンタの部屋……?」 「そ。素敵でしょ? 特別に入ってもいいわよ」 ツカサは初めて王宮へやってきたシンデレラのように目を輝かせ、靴下の足を一歩、中へと踏み入れる。 「お邪魔します……」という素直なツカサの反応が可愛いと感じた比菜子は、先程までのいがみ合いを忘れ「どうぞ」と内側へ招き入れた。
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