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ツカサが彼女の涙に気づいたのは、戸崎が「泣かせちゃったよ?」とアイコンタクトを送ってからだった。
「なっ……なんで泣いてるんだ!?」
ギョッとして彼女と向き合おうとしたが、比菜子は「なんでもないっ」と言い捨てて彼を押し退け、暗い道へと走り出す。
「比菜子!?」
ツカサも咄嗟に後を追って走り出した。
引き止めようと「ツーくん!」と声を上げて絡み付いた有沙だが、彼の眼中にはなく「戻ってろ!」と無下に弾かれる。
いつもは通らない暗い道を走り出した比菜子には、町の喧騒は聞こえなくなり、やがて視界も闇に包まれていった。
(もう無理……自分がコントロールできない。ショックを受けちゃダメなのに……振り回されちゃダメなのに……!)
虚しさと切なさ、そして悔しさでいっぱいだった。
アスファルトの地面にパンプスの音が響く。迷路のような小道に入り、曲がり角のたびにいくつものカーブミラーがそそり立っていた。
あそこにも。ここにも。
そのうちのひとつになにかが映った。
(えっ……?)
立ち止まって、目をこらす。
しかしそこには暗い夜道以外にはなにも写っていなかった。
すべてのミラーには同じ闇が写っているだけ。
(勘違い……?)
周囲を見回してみるが誰もいない。ドクン、ドクンと波打つ心臓が鳴り止まなくなる。
走ったせいでここがどこだかよくわからなくなり、出口はわからず、風の音しか聞こえない。
比菜子は立ち尽くし、荒くなる呼吸を整えようと「ハァ、ハァ」と息をして肩を上下させた。
振り向くと、そこにはさらにカーブミラーが立っており、くっきりと、電柱から覗く黒い人影が写っていた。
「ひゃっ……!?」
見ていられなくて顔を覆い、足を折ってしゃがみこんだ。
(怖い、怖いっ……誰かっ……)
すると背後から〝タッタッタッタッ〟という足音がすごい速さで近づいてきて、それは比菜子のすぐそばまで迫り──
「比菜子!」
(えっ……)
二の腕を掴まれて引っ張られたかと思うと、立ち上がった先にいたツカサの胸の中に収まっていた。
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