第6話 キスと溺愛宣言

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──翌朝。 目を覚ました比菜子は最悪の気分だった。 (本当にどうしよう……ツカサくん怒ってるかな……) スマホを点けるが、あれからメッセージも着信もない。 カレンダーによれば今日、彼はランチから午後六時までのシフトになっている。 一応、夕飯は〝要〟だ。 比菜子はおそらくまだいるであろう彼の部屋に意識を飛ばし、ドアを見つめた。 (婚約者がいることを黙ってたのはツカサくんの落ち度だけど、それでこんなにショックを受けているのは私の問題。昨日のは完全に八つ当たりだった) ヨロヨロと起き、キッチンに立つ。 予約しておいたご飯が炊けていたため、それをボールに移してしゃもじでかき回した。 小鉢の中で缶詰めのツナとマヨネーズを和え、冷蔵庫に入っていた梅干しは種を取り大葉とともに包丁で叩く。 塩と水をつけながらおむすびを握り、ふたつを味噌を塗って熱したフライパンへ、別のふたつはツナマヨ、さらに別のふたつには梅しそを中に詰めて味付け海苔を巻いた。 三つはひょいひょいと掴んで自分の口の中へ放り込み、残り三つは皿の上に綺麗に並べる。 皿にはたくあんを添え、ラップをかけた。 身支度を終えて部屋を出る。 おむすびの皿を持ってツカサの部屋の前に立ってみたが、どうしてもノックをする勇気は出なかった。 (……ごめんね。行ってきます) 皿をドアの前に置き、比菜子は音を立てずに玄関から出ていった。 * * * (はぁー……仕事終わっちゃった) 定時になり、比菜子はバッグに私物を詰めながら、昨夜のことをツカサはどう思っているのだろうと憂鬱になっていた。 白のブラウスにグレーのスカートを整え、最近は冷え込むためベージュのPコートを羽織る。 課長席に寄って篠塚へ「お疲れさまです」と声を掛けようとしたところ、目が合うと彼に「浅川さん」と呼び止められた。 「はい。なにか」 「ごめんね。今日、ちょっと時間あるかな? 付き合ってほしいところがあるんだけど」 篠塚がデスクの上で手を組み直し、薬指のシルバーリングがキラリと光った。 まったく予期していなかった彼の誘いに、比菜子は目を丸くする。
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