第6話 キスと溺愛宣言

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しかし篠塚が浮かべているいたずらな笑みに気づき、なにか理由があるのだろうと察して「はいはい、空いてますよ。どこですか」と返事をする。 「もうすぐ契約社員の伊藤さんが退職するだろう?」 「そうですね。今月末まででしたっけ」 「そう。一年という短い勤務期間だったけど、ぜひ彼女になにか贈り物をできたらと思っていてね。浅川さんも一緒に来て見繕ってくれると助かるんだけど」 篠塚は「僕だと若い女性の喜ぶものはわからないから」と苦笑いで付け加えた。 「なるほど……!」 比菜子は一瞬でも変な意味に捉えそうになった自分が恥ずかしくなり、社員を大切にする篠塚の姿勢にじんと目もとが熱くなる。 「もちろん、お供させていただきます! 一緒に選ばせてください!」 ドンと自分の胸を叩いてみせると、篠塚は「ありがとう」と微笑んだ。 電車に乗って数分後、つぼみ荘の最寄り駅近くにある女性向けギフトショップへやって来た。 (課長にこっちの駅まで来てもらっちゃってよかったのかな?) 先ほど行き先を決める際、篠塚によく行くギフトショップはどこかと聞かれたときにこの店を答えてしまったため、「じゃあそこへ行こう」と決まったのである。 (課長の家、たしか反対方向だったと思うんだけど……) ビシッとしたスーツ姿の彼を秘かに見上げる。 「どうかした? 浅川さん」 「い、いえ」 女性社員に人気のある篠塚の甘い視線に妙な気分になり、勢いよく顔を逸らす。 すると、その通りの先には見慣れたチェリッシュの看板があった。 (そうだ、ここチェリッシュの近くじゃん! やだもう……! ) 比菜子は再度、篠塚へと向きを戻す。 「お店に入りましょう課長! さあ早く早く!」 篠塚の腕を引っ張り、ハンカチや美容品などの上品なギフトが並べられた店内へと入っていった。
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