第1話 ツカサくん襲来

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まずは入って右、小さなキッチンスペースに目をつけた。 「なんだこれ! 俺のところのキッチンこんなに広くなかったぞ!」 「カラーボックスを天板で繋げて、カウンターにしてるのよ。収納もできて一石二鳥でしょ。布で隠してるけど、お皿とか調味料、フライパンとかがここに入ってる。ガスコンロはひとつだけど、卓上IHをひとつ置いたからふたつ使えるの」 知らない言葉ばかりなのか、ツカサは頭にハテナマークを浮かべながら「へぇー……」と声を漏らす。 次に左に目をやった。脚の長いベッドが置かれている。 「すげえ! どうやってベッド部屋に入れたんだ!?」 ツカサはベッドの柱に許可なく触れ、白い木材にパステルミントの寝具の乗った爽やかなそれを感心して覗き込む。 「かわいいでしょ? ネットで探して自分で組み立てて、白く塗ったのよ。高さを出したからベッド下は収納にできるし。タンス代わりに衣装ケースを置いたり、オフシーズンの寝具とかもしまえる。寝るとき天井低いけどね」 恥ずかし気もなく、比菜子はベッド下の突っ張り棒のカーテンをずらし、衣装ケースをちらりと見せた。 「自分で組み立てた……? なんだそれ、すげぇ……」 しかし、ツカサは輝かせていた目を暗く戻し、のある右隅の茶色い扉に向ける。 「……でも、トイレとシャワーはどうだよ。床のタイルは黒ずんでて汚かったし、俺はとてもじゃないがあそこには入れねぇ」 待ってましたとばかりに、比菜子はシャワールームのドアの前へ「おいでおいで」と手招きする。 ツカサは目を細めて嫌そうな顔を見せたが、引き扉が開かれると、再び目を輝かせた。 「はぁ!? なんでアンタのところのトイレだけこんなに綺麗なんだよ!?」 正面にトイレと小さな洗面台、左にシャワールームが設置されている。 「でしょ? ウッド柄の壁は全部リメイクシートを貼ってて、床は専用の撥水シートを接着剤でタイルにくっつけてる。トイレは便座もタンクも取り外して必死に磨いたんだから! 苦労したのよ?」 「すげぇ……すげぇ……!」 小さな子どものようにはしゃぐツカサを眺め、比菜子はほっこりと心暖まった。 「洗濯機は共用のが外にあって、一回百円で乾燥機も使える。私は基本的に手洗いしちゃうし窓際に干してるから、共用のはツカサくんひとりで使えばいいよ」 “一回百円”という言葉に、ツカサはポカンと間の抜けた顔をした。 「……え? 服乾かすのに金がかかんのか?」 「当たり前でしょ。乾燥機なんて電気代高いんだから、無料で貸してくれるところなんてないわよ。大家のおばちゃんから説明あったでしょ?」 「いやなにも。ばあちゃん、騒いでばっかりで説明とかしてくれなかった」 (そっか、おばちゃん、こんな子が入居したら興奮して使い物にならなかっただろうな……)
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