第6話 キスと溺愛宣言

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自覚さえしてくれたらそれでいいと思っていたが、開き直るツカサの態度に比菜子のイライラは募っていく。 「あのねぇ。婚約者の有沙ちゃんに内緒で私の部屋に来るってだけで立派に浮気よ! なにもなくてもアウトなんだから」 「はああああ!? 有沙!? なんでアイツが婚約者ってことになってんだよ! 幼なじみだって説明しただろうが!」 「え!? だって有沙ちゃんと……」 (…………あれ?) 上半身を後ろへひねって臨戦態勢になりながら、比菜子はピタリと止まる。 (……有沙ちゃんは婚約者って言ってたけど、実際それっぽい現場を見たことはあったんだっけ……?) 「有沙となんだよ。なにもねぇよ」 「で、でもツカサくんだって私のこと有沙ちゃんにバレると面倒だから秘密って言ってたし……」 「比菜子だって見ただろ? よくわかんねぇけど有沙は昔から俺に関わる人間に干渉してくるんだよ。比菜子に迷惑かけると思ったから秘密にしたかっただけだ」 「……でも私は有沙ちゃん本人に婚約者って名乗られたんですケド」 「アイツそんなこと言ってんのか!? 幼稚園のときに俺がプロポーズしたとかって話をずーっと根に持ってんだよ! こっちは全然覚えてねぇから!」 (なんだそりゃ……) 「有沙は妹みたいなものでそういうんじゃねぇよ。だいたい、アイツも俺のことなにもできないってしょっちゅう貶してくるし、男として見てるわけないから。婚約者だとか俺には言ったことないし、どうせからかってるだけだろ」 (うわ、ニブ……) 「とにかく! 有沙はただの幼なじみ! わかったか!」 ツカサの腕の中で、有沙に気の毒な思いを馳せる比菜子。安堵の混じる声で「うん……」とつぶやいた。 彼の顔は窓から差し込む月明かりで綺麗に映し出され、納得した比菜子へ向けて「よし」とかすかに微笑む。 彼女は恥ずかしくなって前を向き直し、再び背を預けた。 「それになんだよ。比菜子のこと女だと思ってないとか言ったことねぇだろ。勝手に決めつけるな」 「なっ……それはあるよ! あったじゃん!」 ムッとして思わず再び振り返ったが、ふと「いつ言われたっけ?」と遡ってもすぐには思い出せなかった。 しかしそういう事実ばかりを目の当たりにしてきた記憶があり、その度に傷ついてきたのは間違いない。 「ねぇよ!」 「あった!」 「ねぇっつーの!」 「あったもん!」 子どもじみた言い合いになり、甘くドキドキする体勢のはずがツカサはプロレス技のごとくギューギュー抱き締め、比菜子も対抗してその手をつねる。
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