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第7話 YESの決め手
あまり眠れなかった夜が明け、朝はいつもよりはやく目が覚めた。
炊飯器のタイマーが鳴り、昨夜のことを悶々と考えながら炊き上がったご飯をかき混ぜる。
(ツカサくん、朝ご飯食べに来るかな……顔合わせづらいけどお腹すいてるだろうし……)
気軽に約束を反故にできない質の比菜子は律儀にもおむすびの準備をする。
冷凍の豚こま肉をネギと炒めてタレとマヨネーズで味付けした豚マヨむすびと、きゅうりの漬物のおむすび、混ぜ込みワカメのおむすびを二つずつ握り、海苔を巻いた。
(好きって、本気なの……? 全部私の夢だったりしないよね?)
黙々と作業をしていたところで、ブザーのようなチャイムが鳴り響く。
(来た……!)
おむすびまでこしらえたのに居留守をする選択肢はなく、「はぁい……」と弱々しい返事とともにドアを開けた。
「……おはよ、比菜子」
いつものパーカーを着たツカサは〝今日こそ逃がさねぇぞ〟と言いたげに立っており、右手に昨日比菜子が朝食に置いて行ったおむすびの皿を持っていた。
「お、おはよう……」
(うう……男の目をしてらっしゃる)
中へ入ってきたツカサはすぐに皿を比菜子に渡し、「おにぎり。うまかった。ありがとう」とぶっきらぼうにつぶやく。
綺麗に洗われた皿を受け取った比菜子は「どういたしまして……」と不自然な動きでそれをカラーボックス内の棚へしまった。
口数が少ない中、ふたりは席に着く。簡易テーブルを挟み、比菜子は座椅子に正座し、対するツカサは座布団の上で足を組んでいた。
「……比菜子」
「あの、ツカサくん」
先に口を開いたツカサを遮り、比菜子は正座の膝に手を置いたまま名前を呼ぶ。
なによりも先に言わなければと決めていたことがあった。
「この間はひどいこと言って、ごめん」
綺麗に整えた前髪がパサッと落ちるほどの勢いで、深く頭を下げた。
「……ひどいこと?」
ツカサの方はピンと来ておらず、首をかしげる。
「ツカサくんがひとりじゃなにもできないなんて言っちゃった。ごめんなさい。本当はそんなこと思ってない。全部八つ当たりでした……」
「ああ、それか」
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