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「ショックだった」と言われてもしかたのない、ひどい言葉だったと比菜子は思い返してうつむく。そのときのことを蒸し返せば彼が「やっぱり好きじゃないかも」と告白を撤回するのではないかと怖くなった。
不満を言われても受け入れようと縮こまって身構えていたが、目の前のツカサは、
「そんなの、気にしてねぇよ」
と答え、フッと笑みを落とす。
「……え。本当に?」
「切羽詰まってると、思ってもないこと口走るもんだろ。俺も比菜子にいろいろ言ったからわかる」
「え? なんのこと?」
今度は比菜子が首をかしげた。
「オバサンって言った」
(……そうだった)
寛大に許したツカサとは違い、比菜子の方にはそのときのムカムカした感情が甦ってきた。しかしここで怒りを蒸し返すのは大人げないと思い、自制する。
「……私も、全然気にしてない、よ」
「あのときは八つ当たりしただけだ。ごめん。比菜子のことオバサンだなんて思ってない。本当は初めて見たときから、かわいいと思ってた」
(なっ……!?)
「嘘つくんじゃありません!」
「本当だっつーの!」
喧嘩腰で誉められ、比菜子の着替えたばかりのビジネスカジュアルは汗ばみ、頬はたちまち熱くなる。
「……で、でもさ、ツカサくんはモテるでしょ。かわいい子なんていくらでも……」
「は? 俺全然モテねぇよ」
「それは嘘!」
「マジだって。……よくわかんないけど、いい感じだと思ってた相手にもすぐフラれる。まともに付き合ったことない」
(絶対うそ、絶対うそ、絶対うそ)
「本当だぞ」
ツカサは比菜子をジッと見つめたまま決して視線を逸らさない。
「……う、うう~……はい! この話はいったんおしまい! 遅れちゃうからもうご飯食べて! 続きは夕飯のとき話そう!」
「……わかった。今日外で食べようぜ」
「えっ……」
(デートってこと……?)
一瞬沈黙が走る。
たしかなトキメキを感じている今、これ以上拒否をする理由はなかった。
「……う、うん。わかった」
風呂上がりのように温まった顔を、パタパタと手で仰ぐ。
とりあえず話に一区切りついたと思い、その手をテーブルの上のおむすびへ伸ばした。
すると、対面からも手が伸びてきて、油断していた無防備な比菜子の手が搦め捕られる。
「えっ……」
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