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「な……なにか用?」
(どうしよう……これからツカサくんとご飯だなんて言ったら、絶対こじれる)
「お時間は取らせません。数分で済みますので」
ファミレスなら大通りから目につくため、さすがの有沙も悪さはしないだろう。そう踏んだ比菜子はため息をついてうなずく。
(有沙ちゃんにツカサくんとこうなってることをいつまでも黙ってるわけにいかない。でも今は時間が迫ってるから……悪いけど、用件だけ聞いて終わりにしよう)
「……わかった。少しだけね」
有沙は「じゃあ入りましょう」と言い、ドアの前に立つ。ガラスの引戸をいつまでも引こうとしない彼女に代わり比菜子が開けると、有沙はそれがさも当然のようにやっと中へ向かって歩きだした。
(自分で開けろっつーの!)
比菜子は先に入った彼女をモヤモヤしながら追いかけ、通りからかろうじて見える四人がけのソファ席へ座った。
落ち着いて早々、有沙は店員を「いいですか」と呼び止める。
「はーい、いらっしゃいませー。ご注文どうぞー」
高校生か大学生ほどの若くて細い女性店員が、マニュアル通りの笑みを浮かべながらデンモクを取り出す。
「コーヒーを一杯いただくわ。希少なものは取り揃えてらっしゃらないでしょうから、スカイマウンテンで結構よ」
「はい?」
「最高級ランクのものはございます?」
あいたたたた、と額を押さえた比菜子は、店員へ「ドリンクバーふたつです……」と言い直す。
「はーい」とそれに従った店員は「ではご自由にご利用ください」と中央奥のコーナーを手で示し、首をかしげながら去っていった。
「よしっ、ちょっとここで待っててね有沙ちゃん。私がここのスーパーオリジナルブレンドを淹れてきてあげるから」
「あら。オバ様、バリスタの資格を持ってらっしゃるの? 意外ね」
「そーそーもうバリスタオバサンちょちょいのちょいって十秒くらいで淹れちゃうから」
(申し訳ないけど時間がないからそういうことで!)
ドリンクバーの使い方を手取り足取り教えてあげたいところだが、早く済ませなければツカサのバイトが終わってしまう。
比菜子がドリンクバーのマシンでプシューッと淹れた内容不明のブレンドコーヒーを、目を閉じて香りを味わった有沙はひと口飲んだ。
「……深みとコクがあって、苦味もちょうどいいです。オバ様にも取り柄があったのですね」
「そ、れ、は、ど、う、も」
同じコーヒーをすすりながら、急いでいる比菜子は秘かに足の先をトントン鳴らしていた。
「で、有沙ちゃんは私になんの用なの?」
「あら、わかりませんか? 簡単なことです。これ以上ツーくんのそばをうろつかないで欲しいと思いまして」
(……やっぱりか)
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