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ツカサは困った顔で、一万、二万、と指を折って数え始める。
「ひとり暮らしって、月何万くらいかかるんだ……?」
その質問に、比菜子も自分の指を折って金勘定を始める。
「家賃、光熱費、食費、通信費、どんなに切り詰めて生活しても、五万はかかるわよね」
「五万……」
「お金に困ってるの?」
「べ、別に困ってねえよっ」
「困ってない人はここに住まないと思うけどなぁ」
比菜子の挑発的な言葉に、彼は悔しそうに顔を赤くする。
なにか事情があるのだろうと勘づいた比菜子だが、詳しくは聞かず、一通り自慢して満足したため「お茶淹れるから、持ってきてくれたクッキー食べようよ」と気楽に誘った。
「い、いいのか」
「うん。そこに座ってて」
中心の折り畳みテーブルへポンと小さな座布団を置き、うろちょろしていたツカサは言われた通りにそこへ腰を下ろした。
比菜子は電気ケトルでお湯を沸かし、取っ手のついたプラカップに紙コップをはめて紅茶を注ぐ。クッキーの詰め合わせもお皿に出し、テーブルに並べた。
自分も座椅子に座り、紅茶をすする。
「ツカサくんは大学何年生?」
「四年。もう授業もないし、卒業するだけ」
「へ!?」
世間知らずで顔も礼儀も幼いツカサのことを、てっきり一年生かと思っていた比菜子は驚きの声を上げた。
「童顔で悪かったな! これでも二十二だ!」
「う、うん。大丈夫、見える見える」
(見えない!)
プイッとへそを曲げてしまったツカサは紅茶の入ったコップに口をつけるが、猫舌なのかひと口で離し、フーフーと息を吹きかける。
「じゃあなに、就職とか決まってるの?」
「……もうすぐ。今探してるとこ」
(金髪で?)
比菜子は心の中で、当然のツッコミを入れる。
(就職先が決まってないのにどうして引っ越してきたんだろう。それに、引っ越し業者来た? 物音しなかったけど。……謎すぎる)
疑問は止まらないが、
(ま、言いたくなさそうだし、べつにいいか)
と、ドライな彼女は納得する。
(生意気な子だけど、にぎやかになって楽しいかも)
彼とお高いクッキーをつまみながら、コーナーに置かれたテレビで、再放送のほのぼのドラマを点けた。
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