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有沙はポカンと口を開けたまま三秒固まった。しかしすぐに我に返り「そんなことないです! 皆私の言うことを聞いてくれるんですから!」と身を乗り出し、比菜子と視線を合わせたまま首を横に振る。
「残念だけど、世の中にはできることとできないことがあるの。こんな子ども騙しが通用するのはせいぜい学生までよ。大人は有沙ちゃんの思い通りには動かないし、いつまでもツカサくんを縛っておけると思わないで」
「……そんなっ……」
このまま周囲の視線を釘付けにしておくわけにはいかないと思った比菜子は、ソファ席から出て屈み、百枚の一万円札を拾い集めた。
それをトントンとテーブルで整え、しっかりと持って有沙へ突き返す。
「私はお金なんかいらない。これを受け取ってツカサくんを傷つける方がよっぽど嫌。こういうことをしてきた有沙ちゃんには、ツカサくんを好きだって言う資格ないよ」
「なっ……!? 偉そうに! オバ様には資格があるとでも言うんですか!?」
自分には資格があるのだろうか。比菜子は言われるままに一度考えた。
年齢差や育ちの違いで、何度も〝資格がない〟とブレーキをかけてきたのは自分自身だった。
(──そんなの、関係ない。ほかでもないツカサくんが、私を選んでくれたんだもの)
「私はツカサくんのことが好き。これからも一緒にいたいと思ってる」
「バカなこと言わないでください! オバ様は貧乏で、とても釣り合ってなんかっ……」
「比菜子は貧乏じゃねぇよ」
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