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「比菜子。今日バイト終わったら、どっか行こうぜ」
「えっ」
「昨日飯行けなかったし。デートしたい」
比菜子は相手から〝デートしたい〟と言われた経験はほとんどなく、感動で胸が震えた。
かわいらしいお願いに笑みがこぼれ、うれしそうに「うん」と答えたが、くっつけられている彼の下半身からとても〝かわいらしい〟では済まされないモノを感じた。
(こ、これって……)
当たっている。
お尻にグッと押し付けられているソレは、どんどん硬くなっていた。
「……わかってるよ。今はしねぇよ、バイトだし」
そう言いつつ、ツカサは我慢できずにさらに腰を押し付ける。
(あ……だ、め……)
耳たぶにかかる彼の熱い息は、気持ちよさへの好奇心を隠せないように荒くなっていた。
「でも、近いうち、シたい」
求められてゾクッと甘く痺れ、比菜子も熱い吐息が漏れだす。
「う、うん……」
(それって今日なのかな……?)
ツカサと出会ってから、全身、常に準備万端だった。彼の存在が恋人か否かに拘わらず、なぜかいつ見られてもいいように入浴時に念入りに整えてしまうのだ。
肌はツルツルで、とっておきの下着が服の中に隠れている。浮き足立っていると言わざるを得ない。
しかし、いざ彼とそういう雰囲気になると緊張しすぎてはぐらかしたくなるのが比菜子の悪い癖でもあった。
「そ、そうだツカサくん! デート、行きたいところがあるの」
ほぼシている最中のような体勢から無理やり抜け出され、ツカサは興奮が冷めない顔つきのまま「どこ?」と尋ねる。
比菜子は逃げるように、ベッドの脚に置いていた仕事用のバッグのところへ駆け寄ってしゃがみ、財布の中を探った。
掴んだ二枚の紙切れを、まだキッチンにいる彼へ「じゃーん!」と言って見せる。
「ジムの無料券! 行かない?」
「ジム?」
「うん。ツカサくんのおかげで会社から貰えたんだ。実質、ツカサくんの奢りということで」
「比菜子が行きたいなら行く」
彼はチケットの詳細を読みもせず、離れたままコクンとうなずく。
「やったぁ! じゃあ待ってるね」
ツカサの下半身はまだギンギンになっているが、バイトの時間が迫っていた。
鎮めようと試みる彼は口数が少なくなり、黙々とサンドイッチを頬張り始める。
若々しく好奇心旺盛なツカサを、比菜子は笑顔のままで眺めていた。
(餌付けしてるみたいな関係だってわかってるけど、それでも、今は考えたってしかたない。……きっと結婚なんてツカサくんは考えてもいないだろうから、私は諦める覚悟をした方がいいよね。ツカサくんとの〝今〟を楽しむんだって決めたんだから)
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