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ツカサのバイトが終わるとふたりは駅前で合流し、地下鉄で五駅移動してすぐのジムへとやって来た。
「ここか」
「わ。なんだか思ったよりすごいね……」
ビルのワンフロアを予想していた比菜子は、地下駐車場を備えた三階建ての白い建物を見上げて驚きの声を漏らす。
臆することなく入っていくツカサの後に続き、そろそろとL字の受付カウンターへと近付いた。
「こんにちは」
受付のポニーテールの女性は私服姿のツカサたちに笑顔で声をかけ、比菜子は「あのー……」と控えめにチケットを差し出す。
「無料券をいただいたので来ました。ウェアやバッシュも無料貸出してるって書いてあるので、お願いしたいのですが」
「え? いえ、無料貸出はしてませんが……」
女性は首をかしげながらチケットを受け取り、裏返して小さな注意書きを読み始める。
「……あ!」
そして目を見開いて声を上げ、ツカサと比菜子を交互に見た。
「はい! お客様にはすべてお貸しできます! ええと、ちょっと上の者を呼んできますので少々お待ちください!」
「え? あ、はい……」
ふたりが不思議そうに顔を見合わせていると、奥へ引っ込んだ女性の変わりに中年のスラッとした男性が出てくる。
こちらはワイシャツにネクタイを締めていた。
「いらっしゃいませ。本日はお越しいただき誠にありがとうございます。お客様の専用スペースをご用意してありますのでご案内いたします」
(専用スペース……?)
男性に連れられるまま、ずらりと並ぶ器具を会員たちが各々利用している光景を横目に、階段をひとつ昇って別フロアへと移動する。
だんだんとすれ違う人は少なくなり、やがて三人のみが歩く廊下はシンと静まり返っていた。
「こちらでございます。置いてあるものはご自由にお使いくださいませ」
ガラス戸をひとつくぐるとそこに靴箱が置かれ、ウェアにバッシュ、タオルやヘアゴムなど豊富なアメニティが並んでいた。
その先にはさらに横にスライドする白いドア。
金色の筆記体で『PRIVATE VIP』と書かれたそのドアを、男性は開けて手で押さえながら「どうぞ」と中へ促す。
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