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* * *
ところが、気づけばお昼のほのぼのドラマは終わり、サスペンスドラマが始まっていた。
ツカサは一向に帰ろうとせず、未だに座布団に居座っている。
比菜子は何度か彼を盗み見ているが、まったく動く気配がない。
「あのー……ツカサくん?」
「なんだよ」
「あなた、いつ帰るつもり?」
ついにそう尋ねると、ツカサは顔を赤くして怒りだし、テーブルに腕を置いて貼り付いた。
「なんだよ俺がいちゃ邪魔なのかよっ!
ちゃんと大人しくしてるだろ!」
「いや邪魔だわ」
(なに考えてんのこの猫。イケメンだからってなんでも許されると思うんじゃないわよ)
比菜子が迷惑そうに白目をひんむいて「帰れ」とテレビを消すが、野良猫も対抗して眉間にシワを寄せて威嚇し、偉そうにふんぞり反る。
「なんだと! 俺は邪魔者扱いされたことなんてねぇぞ!」
「アンタの周りの大学生の小娘と一緒にしないでくれる!? こちとら大人なんだから暇じゃないのよ! ガキんちょのお守りなんてしてらんないの!」
(暇だけど)
「おいガキんちょって言うな!」
白熱して急に立ち上がったツカサに、比菜子もむきになって「ガキじゃん!」と応戦する。すると、両者どちらもテーブルに足をぶつけ、バランスを崩し──。
「なっ……」
「ひゃっ……」
狭い部屋の中、どうしてこうなったのか、ツカサの体は比菜子に覆い被さっていた。両者言葉が出ず、時が止まる。
ツカサの金髪がはらりと垂れ落ちたことで、比菜子は真っ赤になって体をよじった。
「やだやだ! なにすんのよ! どいて!」
「ち、違っ……わざとじゃねぇし!」
ツカサもすぐさま上体を起こし、両手を上げて無実のポーズを取った。
「だいたいこっちだって、オバサンはお断りだっつーの!」
本日二回目、比菜子の顔面にヒビが入った。
(……決めた。このガキんちょはもう、出禁)
怒りは頂点に達し、笑顔でツカサの胸ぐらを掴み上げると、そのまま玄関まで引っ張っていく。
「お、おい、離せよっ」
「残念ね、ツカサくん。もう少し紳士にならないと、オバサンには貢いでもらえないわよ」
ドン、と彼を押し出して、扉を閉めた。
廊下に放られたツカサが「ふざけんなっ」とドアを叩いているが、比菜子がドアに向かって一発蹴りを入れると、声は止む。
やがて静かになり、向かいの扉が閉まった音がした。
事故とはいえ、先ほどの押し倒される景色に顔が熱くなっていく。頬に手を添え、ドアの前にずるずるとお尻をついて崩れ落ちた。
(まったく最近の野良猫は……。躾がなってないんだから)
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