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ジムのシャワーで汗を流すと、ふたりの気分は一度リセットされた。
つぼみ荘へ戻り、比菜子の部屋でたんぱく質多めの夕食を終える。
もちろん比菜子は、帰ってからツカサがずっとそわそわしていることに気づいていた。
おそらく食事後のツカサの日課である『へるすた』の日記の更新が済んだら、ことが始まるのだろう。
スマホをいじりだした彼の横で、比菜子は恥ずかしくなって膝を抱えた。
「ちょっと待ってろ比菜子。更新だけするから」
「……え、う、うん」
(待ってろって、やだ……私そんなに物欲しそうにしてたかな?)
頬が熱くなるのを感じながら、横で彼の指が画面をタップする気配がする。
ついに緊張感に耐えられなくなり、照れ隠しにツカサのスマホを覗き込んだ。
今日の夕飯である鶏ササミのサラダと豚汁、ネバトロ丼の写真をアップし、へるすウォッチが記録していた運動メニューを公開している。
そこに【ジム二時間行った】と淡々とした日記を書き込んでいた。
ツカサが【送信】をタップする。
すると、サイレントになっているものの、画面の上部には【イイねがつきました】というポップが幾重にもなって表示された。
「え! なにそれ!」
「なにが?」
比菜子が食い入るように見ると、ポップは【へるトモに追加されました】や【コメントが届きました】などさらに重なって表示されていく。
「通知来すぎじゃない!?」
「あー。へるトモ?ってやつらに見られてるみたいで、いちいちイイねしてくるんだよ。コイツらなんで俺の日記なんか読むんだ?」
もちろん比菜子はへるトモやイイねの機能についてはよく知っているが、日記を上げて数秒でこんなに通知が来るのを見るのは初めてだった。
「ちょっと見せて!」
彼のスマホを奪い取り、コメント欄を開く。
【ゆみ◆ツーくんジム行ったんだね♪ お疲れ様~】
【さおり◆ツーくんのご飯今日もおいしそう!】
【ちか◆お料理上手……♡ 理想の旦那さんだぁ♡】
【かな◆顔見たい>< 絶対イケメン><】
【ユイカ◆へるすウォッチ発売したらツーくんとおそろの買う!】
「ぎゃー! なによこれ!」
(コメント五十件!? へるトモ一万人!?
しかもここでもツーくん!?)
「なにがだよ?」
ツカサは鬼の形相になった比菜子に首をかしげる。
「コメントもへるトモも女の子ばっかり!」
「しかたねぇだろ。向こうから送りつけてくるんだから」
(ていうか料理作ってるの私なんですけど!?)
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