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第9話 変わりゆくこと
それから、一夜明けた。
比菜子は夢の中でも泣いていた。
なんだかんだいつも許してくれるツカサを怒らせたことがショックだった。
(完全に甘えてた……。付き合うまでずっと待ってくれたツカサくんに対して、私ったら……)
まだベッドから出られずぼんやりとする意識の中で、何度も彼への謝罪の言葉をつぶやく。
昨夜は頭からかぶるようにシャワーを浴び、髪も乾かさずに眠った。あたたかいパジャマを着る気持ちの余裕もなく、太ももまでのロングキャミソールのランジェリー姿で今も頭まで毛布にくるまっている。
(……今、何時だろ……)
寒くて起きられず、壁掛け時計の時刻を確認するため頭だけを毛布から出し、目を開ける。
「よう」
目に入ってきたのは壁掛け時計ではなく、ベッドに腰かける彼氏であった。
「きゃー! え!? え!? なに!?」
「そんな驚くなよ……」
飛び起きようと思った比菜子だが、ほぼ下着姿であることを思い出して毛布にを口もとまでしっかりとキープしてベッドの隅へ後退りする。
心臓をバクバク言わせながらも改めて時計に目を向けると、時刻はまだ早朝五時半だった。
「な、なんでここにいるの?」
「比菜子、最近部屋に鍵掛けねぇだろ。昨日のこともあるし、ちょっと心配になって俺もこっちで寝た」
「……いつから?」
「比菜子が寝てから。深夜一時くらい」
(うそ……)
目を落とすと彼の言葉通り、毛布を持ち込んでカーペットで寝た形跡がある。
驚かせるのは勘弁してくれと思いながらも、心配して来てくれたことに素直にうれしさが込み上げた。
(……昨日あんな感じになっちゃったのに、なにもしないでそばで寝ててくれたの
……?)
「ツカサくん……」
「言っとくけど、なにもしてねぇからな。手ぇ出したくなるからわざわざ寝てから来たんだから」
ランジェリー姿がバレていない時点で、言われなくてもわかっていた。
「うん……」
「お、おい。なんで泣くんだよっ」
毛布に顔を埋めた比菜子の目もとに手を伸ばし、ツカサは親指で彼女の涙を拭う。
「嫌われたかと思った……エッチするって約束したのに、破っちゃったから……」
どちらが年上かわからないくらい、比菜子は子どものような涙声でそうつぶやく。
それを聞いたツカサは「はぁ?」と眉をひそめた。
「そんなことで嫌いになるわけねぇだろ」
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