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一夜明け、日曜日の朝になった。
規則正しい生活をしている比菜子は、七時ぴったりにベッドから降り、身支度を整える。
昨日、隣に越してきた猫に生足をディスられたショックが残っている比菜子は、今日はショーパンの下にスパッツを装着していた。
下着を洗面器で手洗いしてから部屋干しし、他の洗濯物はカゴに突っ込む。
手近にあったパーカーを羽織ると、カゴを持って共用スペースの洗濯機へと運ぶ。
(共用の洗濯機を使うのは久しぶりだ。……別に、ツカサくんの様子が気になるわけじゃないもん)
廊下に出ても、物音はしない。
「まだ起きてないんかーい」
比菜子は返事があることを期待して、そう茶化すようにつぶやいてみたが、ウンともスンとも言わない。
(本当にあれからどうしたんだろう……。汚いお風呂には入れないって言ってたけど、結局入ったのかな?)
共用スペースに来てもツカサの姿はなく、比菜子は洗濯機のスイッチを入れて、部屋に戻った。
(もしかして、夜遊びとか……? あり得る! 泊めてくれる女の子とかたくさんいそうだもん!)
そうに決まってる、と切り捨てて朝食のお茶漬けを食べ、片付けも済ませた。
八時半。洗濯が終わり干し終えても、向かいの部屋の様子が魚の小骨のように気になってしかたがない。
(確認するだけ……。留守にしてるって、不在確認をするだけよ。べつに心配とかそういうんじゃないんだから)
比菜子は気づいたら廊下に出て、向かいの扉の前に立っていた。
扉の横の音符マークのチャイムへと指を添え、覚悟を決める。
「ツカサくん、起きてるー?」
控えめにチャイムを押した。力の入れ具合に関わらず、〝ビーー〟っという音は煩いくらいに響いた。
ひと呼吸待ったが、返事はない。
(ほら、やっぱり留守なのね)
回れ右で背を向けた。
比菜子はわかってはいたものの、昨日は猫みたいだと思っていたガキんちょが女の家に出掛けていると知り、そのリアルな実情に悶々とする。
(大学生だもの。ガキっぽいけどイケメンだし、そんなものよね)
理由もわからず切なくなったとき、わずかだが、背後で「ハァハァ」といううめき声が聞こえた気がした。
(……ん?)
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