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「えっ!? えっ!? 黒っ……え!?」
正気に戻った比菜子はあまりの衝撃にドアからベッドのそばまで飛んで戻り、彼の髪を指をプルプルさせながら指し示す。
そしてもうひとつ、いつもと違うことが。彼の服はアルバイトのワイシャツのままだったのだ。
「比菜子に言われた通りそんな切ってねぇだろ」
「……な、なんで黒いの? それにパーカーは?」
「べつに俺は金髪が気に入ってたわけじゃねぇし。メンテナンスも面倒だから黒でいいんだよ。服はフードついてると髪切りにくいかと思って、これで行ってきた」
比菜子の胸中には嵐が吹き荒れていた。
ツカサの髪は金髪を打ち消すとき特有の不自然なほどの黒に染まり、それが彼の二次元的な存在感と、めまぐるしい変化を物語っている。
(どうしよう……ツカサくん、めちゃくちゃ格好いいんですけど……金髪好きだったけど正直ヒモ男感が拭えなかったのに……黒髪にワイシャツだとこう、一気に素敵な御曹司感が……)
昨日までと違う彼は、自覚なく「変かよ?」と上がり込んで迫ってくる。
(ツカサくんがデキる男になったのは知ってたけど、見た目が変わると、それが顕著にわかるっていうか。ああ! ダメ! 好き! ドキドキが止まらない!)
比菜子は座り込んで枕に手を伸ばし、それを自分の顔に押し付ける。
「ごめん、今はツカサくんと目合わせられない……」
「はぁ!? なんでだよ!」
ツカサはむきになり、彼女の枕を力ずくで取り去る。
すると、火が点いたように赤くなり、瞳を潤ませた彼女の顔が現れた。
「……比菜子?」
嫌がっているとか、変だと思っているのではないと勘づいたツカサ、ゆっくりと膝をついてさらに彼女に迫る。
「ダメ……ツカサくん、あんまり見つめないで」
「……なんで?」
「わかってるでしょっ。かっこよくて直視できないんだってばっ」
そう言われてはツカサもたまらず、彼女の手首を掴んで顔を近づけ、「ならもっと見ろよ」と覗き込んだ。
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