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仕事が終わると、水戸から【早乙女さんの了承が得られれば面談の日程を決めたいと思いますので、ご連絡ください】と社内メールが来た。
(はぁ~……昨日、ツカサくんに話すタイミング逃しちゃったな。入社のこと)
このメールでやっと思い出した比菜子は、さてどうするかと考えを巡らせる。
(帰ったら話してみるけど、どんな反応するかな。もしツカサくんが入社するなら、私は企画部に異動して主任に昇格させるって確約されてるんだよねぇ……)
出来心で、人事システムから給与体系を調べる。
(え……! 給料もボーナスも今より三割増しになるの!?)
細かい数字が載った一覧表を食い入るように眺めた後、ついニヘラと口もとが笑う。
(ふふ、それはかなりオイシイなぁ。私もツカサくんもウィンウィンだ。……実家と一回話し合ってもらう必要はあるかもしれないけど、拗れてるみたいだからすぐに継ぐ気はないんだろうし。社会勉強って目的で一回就職してみるのもアリよね)
ひとりで納得し、ウンウンとうなずく。
会社を出て電車に乗り、最寄り駅に到着した。
【もうすぐ帰るね】
彼女らしく、ツカサにそうメッセージを入れる。
(ああ、ツカサくんはやく会いたい。昨日なんて結婚ほのめかしてくるんだもん、期待しちゃうよね)
『このさき比菜子とどうなっていきたいかちゃんと考えてる』
(二十二歳であんなこと言えるなんて超優秀! あれって、就職したら結婚するって意味なのかな……? だったらやっぱり、ここはヘルシーネオに入社しちゃうのもアリじゃない!?)
目をキラキラさせながら駅前をスキップし始めた比菜子。
実は彼女を、ひっそりと後ろからつけている人物がいる。
スーツの中年男性。
「……浅川比菜子さん」
その人物は、ついに比菜子に声をかけた。
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