第10話 膨らむ誤解

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「……え」 振り向いた比菜子は、微笑んで立っていたその男性に気づいて呆然とする。 スーツは柔らかなグレーで、髪はワックスで固められているが〝気のいいおじさん〟という朗らかな顔つきだった。 (あれ……この人見たことあるかも……。誰だっけ) 忘れてしまった知り合いかと焦り、ひきつった笑顔で「あ、ああこんにちは、えーと」と曖昧な受け答えをする。 「突然声をかけてしまって悪いね。僕のことわかるかな?」 (うわー! めんどくさい聞き方ー!) 男性は微笑みながら、頬に人差し指を当ててチャーミングなポーズをとる。 若干引き気味の比菜子が「ド忘れしました」と正直に答えると、彼は「だよねー」とジャケットの内側に手を入れ、革の名刺入れを取り出した。 「こういう者です」 シンプルな名刺を受け取ると、まずは右上にヘルシーネオのロゴがプリントされているのが目に入る。 (会社の人?) 今まで関わった上司たちを思い出しながら、続いて文字を読む。 【株式会社ヘルシーネオ 代表取締役社長 早乙女 帝(さおとめ みかど)】 (……ん?) 顔を上げ、目の前の人物と名刺を見比べた。 「……へ?」 「知ってたかな? 社長です!」 「あーーー!!」 思い切り指をさしながら道の真ん中で大声を上げる比菜子。 慌てて自分の口をふさぐが、周囲の人々は振り返った。 (そうじゃん! この人うちの会社の社長だ! 社内報とかホームページで見たことある!)
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