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「……え」
振り向いた比菜子は、微笑んで立っていたその男性に気づいて呆然とする。
スーツは柔らかなグレーで、髪はワックスで固められているが〝気のいいおじさん〟という朗らかな顔つきだった。
(あれ……この人見たことあるかも……。誰だっけ)
忘れてしまった知り合いかと焦り、ひきつった笑顔で「あ、ああこんにちは、えーと」と曖昧な受け答えをする。
「突然声をかけてしまって悪いね。僕のことわかるかな?」
(うわー! めんどくさい聞き方ー!)
男性は微笑みながら、頬に人差し指を当ててチャーミングなポーズをとる。
若干引き気味の比菜子が「ド忘れしました」と正直に答えると、彼は「だよねー」とジャケットの内側に手を入れ、革の名刺入れを取り出した。
「こういう者です」
シンプルな名刺を受け取ると、まずは右上にヘルシーネオのロゴがプリントされているのが目に入る。
(会社の人?)
今まで関わった上司たちを思い出しながら、続いて文字を読む。
【株式会社ヘルシーネオ
代表取締役社長 早乙女 帝】
(……ん?)
顔を上げ、目の前の人物と名刺を見比べた。
「……へ?」
「知ってたかな? 社長です!」
「あーーー!!」
思い切り指をさしながら道の真ん中で大声を上げる比菜子。
慌てて自分の口をふさぐが、周囲の人々は振り返った。
(そうじゃん! この人うちの会社の社長だ! 社内報とかホームページで見たことある!)
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