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「浅川さんと一度お話ししてみたかったんだよねぇ」
心の中で嵐が吹き荒れ、呑気な社長を前に急に背筋が伸びた。
「えっと、もちろん私もです……ふふ……。ですが、社長はどうして私なんかと……?」
比菜子がそう尋ねると、彼は微笑んで首をかしげた。
「ツーくんがお世話になってるだろう? 感謝してもしきれないよ。本当に、どうもありがとうね」
(……ツーくん?)
社長の口から出たその名前は想定外すぎたため誰のことだか分からずに彼女も首をかしげたが、数秒後、ピンとくる。
(もしかしてツカサくんのこと? なんで〝ツーくん〟? ……あれ? 待って、ツカサくんの名字って、たしか……)
「早乙女ツカサは、僕の息子なんだ」
彼と視線を合わせたまま、比菜子の時が止まる。
(……え)
「ええええええ~!?」
本日二度目の驚愕の事実に思いきり後退りをし、いつかの有沙と入ったファミレスのガラスに背がついた。
「あ、いいね。ここに入って少し話そうか」
「いえ、あの……その……」
(うそでしょ!? ツカサくんの実家の会社がヘルシーネオだなんて、まさかそんな……!)
「浅川さん? あ、もしかして用事あった?」
「いえその……用事はないですが……」
(お宅の大事な息子さんと、ボロアパートでぷち同居しちゃってます! なんて言えないよー!)
断る口実を探すが社長相手には無力で、にこやかな彼にあれよあれよとファミレスの中へと連れ込まれてしまった。
「いらっしゃいませー」
いつかも見たウェイトレスにお辞儀をされ、向こうも比菜子を見て〝あ、札束バラまいたお客さんだ〟と目をキラキラさせている。
げっそりしながら以前と同じソファ席に座った。
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