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ケーキとドリンクバーをふたつずつ注文し、社長は楽しそうにコーヒーを淹れに行く。
比菜子も交代で健康茶を取りに行き、やっと彼の話が始まった。
「聞いているかもしれないけど、ツーくんと喧嘩になってしまってね。うちを継いでもらえるもんだと思ってたのに、自分で就職先を探すって言い出すから。それでいきなり家出をして」
「は、はあ」
「甘やかして育ててしまったせいであの子はとても世間知らずだから、身内のいない他ではやっていけないと思うんだ。それをよくわかっていないみたいで」
「……はあ」
(だーかーらぁ! ツカサくんはポテンシャル高いって! 全然わかってないんだから!)
頭の中でそう叫ぶ比菜子だが、深いため息をつく社長を前に肩を落とす。
(……って言いたいけど、仮にもうちの社長だから生意気なことは言えないな。それに、きっと継いでほしい気持ちが先行して、そんな言い方になっちゃってるんだよね)
「……あの、社長はどこで私のことを?」
「モニター応募の申込で知ったんだよ。一応、応募者が社員や過去のクレーマーに該当しないかを調べるんだけど、息子が応募していると報告があって」
(なるほど……)
「おかげで居場所もわかって安心できたし、紹介者の浅川さんと住所が同じアパートだったから仲良してくれてるんだと思って」
(うわあああ……そこまでバレてるのか)
気まずくてズズズと健康茶をすする。
「そしたらファンの多い注目のユーザーとしてピックアップされてるし、投稿内容も数値の推移も素晴らしい! これもすべて、バックアップをしてくれている浅川さんのおかげだよ!」
「い、いえ、私はなにも……」
「僕は個人的に副アカでツーくんをへるトモに登録してるし、こっそりアパートを覗きに行ったりもしてるんだ。この間なんて、僕が用意した無料券でふたりでネオフィットに行ってくれただろう? うれしかったなぁ」
(あの券、社長からだったのね!)
「我慢できなくて、日記にもコメントしちゃったよ。ふふふふ」
比菜子はハッとする。
(〝通りすがりのM〟!)
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