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比菜子は近くのスーパーで手早く惣菜を買い、急いでつぼみ荘へと帰った。
「ただいまー」
声をかけると、ツカサが暗い廊下から姿を現す。
「……遅かったな」
「ごめんねー。買い物とかいろいろしてて」
「……ふうん」
ツカサとともに部屋に入りバタバタと荷物を整理する比菜子は、彼の射るような視線には気づかない。
惣菜をキッチンへ置き、空のお弁当箱をシンクへ浸し、ハンカチをトイレ横の洗濯カゴに入れる。バッグの中には社長からの現金が入った封筒が残っていた。
比菜子はそれを、ベッド横のチェストの印鑑などを入れている〝大切なものを入れる引き出し〟へ自然にしまった。
ツカサがそれが目に入り、ギュッと唇を噛み締める。
「ご飯は揚げ物買ってきちゃった。お味噌汁とサラダ作ればいいよね。あとは──」
「比菜子」
「……えっ」
背を向けてキッチンへ立った彼女を、ツカサはしなだれかかるようにして抱きしめていた。
突如伸びてきた彼の腕は比菜子の腕や肩をすっぽりと包み込む。
(ひゃっ……)
「比菜子……俺のこと、本当に好き?」
耳もとで囁かれながら、比菜子はドキドキが抑えきれない。
惣菜を扱っていた手は震え、足は今にも崩れ落ちそうになる。
「う、うん。好きだよ」
「本当に?」
ツカサの声が低く響く。
くるりと体を反転させられ、彼と向き合わせになった。
目の当たりにしたツカサの顔は、なにかを耐えているかのように歪んでいる。
「ツカサくん……? どうしたの?」
比菜子の問いかけには答えず、ツカサは彼女をシンクへと押し付けながら、距離を詰めて唇を塞ぐ。
「んっ……」
比菜子の本心を探るようなキスはすぐに荒々しくなり、濃密な音が鳴った。
「ん、ん……んんっ……」
(ダメ、今日こそいろいろ話さないといけないんだから。またイチャイチャして終わりになっちゃう)
「ツ、ツカサくん、あのっ……」
彼女の拳が肩をポンポンと叩いたため、ツカサは唇を離し、「なに?」と返事をする。
「今日はちょっと話があるの。先にご飯にしようよ」
「飯の前に聞く。今。ここで」
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