第10話 膨らむ誤解

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比菜子は近くのスーパーで手早く惣菜を買い、急いでつぼみ荘へと帰った。 「ただいまー」 声をかけると、ツカサが暗い廊下から姿を現す。 「……遅かったな」 「ごめんねー。買い物とかいろいろしてて」 「……ふうん」 ツカサとともに部屋に入りバタバタと荷物を整理する比菜子は、彼の射るような視線には気づかない。 惣菜をキッチンへ置き、空のお弁当箱をシンクへ浸し、ハンカチをトイレ横の洗濯カゴに入れる。バッグの中には社長からの現金が入った封筒が残っていた。 比菜子はそれを、ベッド横のチェストの印鑑などを入れている〝大切なものを入れる引き出し〟へ自然にしまった。 ツカサがそれが目に入り、ギュッと唇を噛み締める。 「ご飯は揚げ物買ってきちゃった。お味噌汁とサラダ作ればいいよね。あとは──」 「比菜子」 「……えっ」 背を向けてキッチンへ立った彼女を、ツカサはしなだれかかるようにして抱きしめていた。 突如伸びてきた彼の腕は比菜子の腕や肩をすっぽりと包み込む。 (ひゃっ……) 「比菜子……俺のこと、本当に好き?」 耳もとで囁かれながら、比菜子はドキドキが抑えきれない。 惣菜を扱っていた手は震え、足は今にも崩れ落ちそうになる。 「う、うん。好きだよ」 「本当に?」 ツカサの声が低く響く。 くるりと体を反転させられ、彼と向き合わせになった。 目の当たりにしたツカサの顔は、なにかを耐えているかのように歪んでいる。 「ツカサくん……? どうしたの?」 比菜子の問いかけには答えず、ツカサは彼女をシンクへと押し付けながら、距離を詰めて唇を塞ぐ。 「んっ……」 比菜子の本心を探るようなキスはすぐに荒々しくなり、濃密な音が鳴った。 「ん、ん……んんっ……」 (ダメ、今日こそいろいろ話さないといけないんだから。またイチャイチャして終わりになっちゃう) 「ツ、ツカサくん、あのっ……」 彼女の拳が肩をポンポンと叩いたため、ツカサは唇を離し、「なに?」と返事をする。 「今日はちょっと話があるの。先にご飯にしようよ」 「飯の前に聞く。今。ここで」
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