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二(三)
直人とともに家を出て、ともに駅に向かうと、舗装されてない道はぬかるみ、ヒールの底が土に取られた。
おまけにスーツのスカートの裾はあまり広がらず、歩幅が狭くなるので思うように前に進めない。
だが直人は、大股でぬかるみを避けて行き、その距離はあっという間に開いて行った。
涼香がなんとかぬかるみを避けつつ、心持ち急いで直人の後を追い掛けると、角を曲がる手前で、直人がつと立ち止まった。
忘れ物?
咄嗟にそう思っていると、振り返った直人は、なにも言わずこちらを見ていた。
なんとかかんとか追いつき、
「なにか、忘れ物でもした?」
と聞くと直人は、
「いや、別に」
と再び前を歩き出した。
だが先ほどと違い、かなりゆっくりめだ。
僅かに前後しているが、ほぼほぼ並んで歩いているといってもいい。
それでもすぐにまた、遥か先のほうを歩いていくのだろう。
涼香がそう思っていると、直人はそのまま歩幅を変えることはなかった。
会話こそないが、ふと空を見上げると、雲の切れ間から暖かな太陽の日差しが降り注いでいた。
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