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一(七)
喜寿の祝いまで残り一ヶ月余りある。
一つワンサイズ上のスーツを買えば済む話だが、一旦ワンサイズ上げてしまったら、ほかのスーツまで買い替えなければならないだろう。
そのことは涼香自身にも、多少の抵抗はあった。
このまま時の流れに流されるまま醜く老いて行くのか、なんとか抗って老いの進行速度を緩めるのか、ここは決断の分かれ目だ。
後日、直人に内緒でワンサイズ上のスーツを買うことも出来るだろう。
だがそうなったらもう、横に並んで歩いてくれなくなるどころか、他人の振りまでされかねない。
これ以上現状に甘んじていては、直人との距離は遠ざかる一方だ。
痩せるしかないか。
涼香はそちらを選択した。
またいつか直人と二人で出掛ける時、少しでも横に並んで歩いてもらえるように。
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