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素直になれない君と僕
「いつお前のことを好きだと言った?」
智大の上に馬乗りになった貴巳が冷たい目でこちらを見下ろしてそう言うのはいつものことだ。
「はあ? ふざけんなよ。誰がおれのこと好きでもねえヤツ相手に触らせるかって」
智大が貴巳を睨み上げて応戦するのもいつものこと。
『多分恋人』という関係になって三年、貴巳と智大がベッドに転がり込む時はいつもこんな感じだ。
「それは俺に操を立てているってことか? 従順な犬だな。嫌いじゃない」
貴巳は言いながら智大の頬に触れる。智大はその指先を見ながらにやりと笑った。
「お前はおれが好きなんだと思ってるから、触らせてあげてるんだろうが。犬はそっちだ」
智大が答えると、面白い、と貴巳が微笑む。キレイな顔をしているから、その冷酷な笑みさえ魅力的だ。
「毎度犬みたいにキャンキャン吠えてるくせに。今日も可愛く啼くんだろ? 俺の下で」
貴巳は自身のネクタイを引き抜き、智大を見つめる。智大は負けじとネクタイを解き、シャツのボタンに手を掛ける。
「やらしいヤツだな。自分から脱ぐなんて。そんなに俺に触られたいか」
「お前が触りたそうにおれを見るから、脱いでやってるんだろうが」
感謝しやがれ、と笑みを浮かべ見上げると、貴巳が噛みつくようにキスをする。
本当に貴巳のキスは突然だ。何がスイッチか分からない上に優しさなんて微塵もない。
ただこっちが溺れそうになるくらい、『好き』と『欲しい』が伝わるから智大も嫌いじゃなかった。
「んっ……」
舌を甘く噛まれ、智大が喉を鳴らす。互いの唾液が糸を作り、唇が離れた。
「感じた?」
「はっ、誰が」
「強情だな」
貴巳はそう言って笑うと、智大のシャツを開き胸に指を伸ばした。ふっくらとした先端を弾くように触られ、智大がびくりと反応する。それを見下ろす貴巳は楽しそうだ。
「智大はこうされるのが好きなんだよな」
「ちがっ……あんっ……!」
急に貴巳が胸に唇を寄せ、突起を口に含み吸い上げる。構えていなかった智大は喉から出る声を抑えられなかった。
「その声、もっと聴かせろよ」
「ぜってー嫌だ」
貴巳は職場の同僚だ。同じ営業課、成績だって今月は少し負けてるけれど先月は智大が勝った。身長だって同じくらいだし、バレンタインのチョコの数だって同じだ。
けれど、こうしてベッドに入ると、どうしてか貴巳のほうが優位に立つ。
智大はそれが腹立たしかった。
「それは、こっちだけじゃ足りないって誘ってるのか?」
貴巳はそう言うと、智大のベルトに手を掛けた。慣れたようにそれを外し、前を寛げる。
「ちげーから! 勝手に触るな」
「感じちゃって、あんあん啼いちゃうから?」
「貴巳てめ……ぜってー泣かす!」
智大は貴巳のシャツを握ると、そのまま体勢を変えた。今度は智大が貴巳の上に馬乗りになる。
「お前だって、ここ弱いよな。おれがしつこく舐めたら、涙目になったし、こっちもめっちゃ固くなったよな」
智大は貴巳のシャツのボタンを開き、貴巳の胸に舌を這わせた。舌先でつつき、ゆっくりと舐める。
「智大は下手くそだよな、舌使うの。まあ、子猫がじゃれてるみたいで可愛いけど」
貴巳が言いながら智大に手を伸ばす。両の乳首を摘ままれ、智大が声を漏らす。
「うっせ……つか、離せ」
「いいよ」
貴巳は余裕のある笑みを浮かべ、智大から手を離した。しかし、腰を浮かせて、既に形を変えている中心で乗っかっている智大の尻を突き上げてくる。
「何、まだ触ってもねーのに勃ってんの?」
「お前がやらしい声出すからな」
「おれの声でこんなんなるの? やらしいのそっちじゃね?」
智大が眇めた目で見下ろす。すると貴巳は、そうだな、と微笑んだ。
「やらしい男は嫌いか?」
「大っ嫌いだね」
智大はそう答えると、貴巳にキスを落とした。貪るように唇を吸い上げられ、舌先は絡めとられる。そのキスに気を取られていると、体勢は元に戻り、下着ごとパンツを引き抜かれる。
悔しいが、貴巳のこの脱がせる技術はいつもながら鮮やかと思ってしまう。どこで身に付けてきたのかは絶対聞かない。
中心に貴巳の長い指が添えられ、そのまま扱かれる。智大は声を出すまいと自身の手の甲を唇に当てた。素直に言えば、貴巳の愛撫は心地いい。
「我慢してんの? 可愛いな、智大」
「ふざけんな! んっ、やっ……!」
対抗しようと手を除けた瞬間、貴巳が強く刺激する。思わず出てしまった声に、貴巳が嬉しそうに笑んだ。智大はそれを睨みつける。
「何? ああ、こっちも触らなきゃな」
中心から下へと指を下ろし、双丘のはざまへとしのばせる。つぷ、と閉じていた蕾に差し込まれ、智大の体が戦慄いた。
「あ、こら。そんな締めるな。俺の指が折れる」
「折れろ」
「折れたらお前のイイトコ触ってやれないよ? それとも一人でする?」
「ぜってーしない」
貴巳の指が慣れたように智大の中の一点を探し当てる。
「んっ」
思わず声に出してしまうと、貴巳は最高にいやらしい顔をして、ここだな、と、何度も指先でその一点をノックした。
「智大、声出せ。ほら」
貴巳が執拗にそこを刺激する。その度に智大の中心からは蜜が零れていた。もう長くは持たない。
「さっさと広げて入れろよ……!」
智大が貴巳を睨み上げて言う。頬を雫が転がっていく。
「泣いちゃった? もうホント、智大は可愛いな。俺の下にいる時だけは」
「うっせ、ばか!」
智大がそう言うが、貴巳は笑顔のままで、智大の後ろの蕾をゆっくりと開いていった。
「入れるよ、智大」
「勝手にしろ」
そんなふうに言われたら、体が期待してしまう。貴巳の雄々しいそれが自分の最奥を突くあの感じを思い出して、それだけでドキドキしてしまう。けれどそれは貴巳には絶対に悟られたくない。
貴巳の熱が智大の中にゆっくりと入り込む。ぞくぞくと肌が粟立つ。
「届いた? 智大」
「お前の短小が届くわけ……んっ、あっ、急に、動くな!」
「お前が嘘つくから」
「嘘じゃねえよ」
「じゃあ、もっと奥に届くようにしなきゃな」
言いながら貴巳が智大の両脚を持ち上げる。貴巳の中心が更に奥に入って、智大はきゅっと力を入れてしまう。
「こら、急に締めるな。気持ちいいだろ」
「お前が奥まで入るから!」
「奥まで入ったんだ……じゃあ、動くからな」
貴巳がちゅっ、と智大の額にキスをしてから、腰を動かす。リズミカルに打ち付けられる快楽に、智大は思わず声を漏らした。
悔しいけれど気持ちよくて、大嫌いだけど大好きで。
「くそっ、貴巳、の、ばか!」
「まだ罵る余裕あるのか」
貴巳は更に腰を動かす速度を速める。全身がビリビリと感電したみたいに刺激が走っていく。
「貴巳っ……たか、みっ……」
「ここにいるよ、智大」
貴巳がそっと智大の腕を取り、自分の首に廻させる。智大は素直に両腕を貴巳に巻きつけ、大きすぎる悦を逃がそうとした。
「貴巳……おねがい、もっ……」
そう言って智大がキスをする。貴巳はそんな智大のキスを受け入れながら、可愛すぎだろ、と困ったように眉を下げた。
「……愛してるよ、智大」
絶頂の手前、そんな言葉が聞こえた気がした。
けれどやっぱり悔しいので聞こえなかったことにして、いつかベッドじゃないところで言わせよう――そう思う智大だった。
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