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「会長、ホントに大丈夫ですか? アイツと同室って……先生に言えばもう解放してもらえると思いますよ」
翌日の放課後、生徒会室で響が六月に行われる体育祭について企画書をまとめていると、頭上からそんな言葉が降ってきた。
響が顔を上げると、そこには書記の浅井が不満そうな顔で立っていた。
「まあでもあと二週間だし。大丈夫だよ」
「会長は優しすぎます!」
浅井の言葉に、そんなことないよ、と響が微笑む。あと二週間しか琉成といられないのだなと思うと、本当はとても寂しいのだが、ここでは頑張ってポーカーフェイスを気取ってみる。そんな響に、でもさ、と声を掛けたのは副会長の湯沢だった。
「毎日倉田と登校してるお陰で、千葉の遅刻は二週間ゼロだし、制服もちゃんと着てるしピアスもなくなったよな」
制服のシャツは、似合うよ、と煽てたら着るようになってくれた。ネクタイも、響が結んでやればしていくようになった。ピアスも目立たない樹脂ピアスをプレゼントしたら、それを付けて行くようになった。琉成は本当に自分がしたいようにしているだけで、それが校則と合わないだけのことなのだ。話し合えば妥協点を見つけてそこに落ち着いてくれる。自分が琉成を変えている、その事実が今はとても嬉しかった。
「りゅ……千葉くんは悪い子じゃないよ」
「でも会長、ホントにホントに大丈夫ですか? 千葉に……その、無理やり、とかないですか?」
浅井が言葉を濁しながら、それでも真剣に聞く。響はそれに笑った。
「俺が千葉に何を無理やりされるの? 無理やりしてるのは、こっちなのに」
「え? か、会長が?」
「うん。朝、無理やり起こして、無理やり着替えさせて、無理やり学校に引っ張って。放課後も無理やり宿題やらせて、外出もさせないし……ね、俺の方が無理やりだろ?」
そう答えると、浅井の顔が真っ赤になり、後ろで湯沢がそれを見て吹き出すように笑った。
「浅井、倉田にそんな遠回しに聞いても分かんないって。自分のファンクラブができてることにも気づいてないんだから。それにこの様子じゃ心配ないよ」
「だって湯沢先輩、ファンクラブ会員としては心配なんですよ、千葉って毎晩遊び歩いてるって噂だし」
湯沢と浅井の会話をニコニコと聞きながら、響は心の中で苦笑いをした。自分のファンクラブができていることも、毎日気持ち悪いくらいたくさんの視線が自分に向いていることも知っている。男子校ゆえに、自分のような小柄で女性寄りの顔をしている者は異質なのだろう。そうやってじっと遠くから見つめてる奴らは、きっと妄想の中で自分を裸にしてやりたいようにしているのだろうと思うと正直気持ち悪いとしか思えなかった。
ただ、そういう奴らが自分を生徒会長に押し上げ、琉成と暮すチャンスをくれたのだから、そこは感謝しなくてはいけない。だからこそ、自分は何も知らない清らかなみんなの生徒会長を演じている。
「まあ、ほら、俺は大丈夫だし。それより、仕事進めないと」
響が二人に声を掛けると、そうだった、と浅井があわただしく席に戻る。それを見ていた湯沢がため息を吐いた。
「でも倉田、ホントに期間短くしていいと思うよ。何かあってからじゃ遅いし」
言いながら湯沢が響の髪を撫でる。響はそれに、うん、とだけ曖昧に頷いて答えた。
せめてあと二週間、琉成と居られるなら、その期限までは今のまま過ごしていたい。響はそう思っていた。
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