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翌日響は熱を出し、今年初めて学校を休んだ。昨日のことはなんだったのか、今日琉成は学校にいっただろうか、生徒会の仕事は進んだだろうか……考えることはたくさんあったが、まだ昨日手荒にされたところは寝返りを打つだけで痛かったし、なにより琉成にあんなことをされたというのが悲しくて、結局一日ベッドから出ることも出来なかった。
何があんなに琉成を怒らせたのか、まるで分らなかった。前の日遅く帰ったせいか、けれどあれは怒っているというより拗ねていたに近く、あんなことをされるほどのことではなかったと思う。じゃあ、他に何が……そう考えるけど何も思いつかなかった。
眠ることも出来なくて、勝手に溢れてくる涙をシーツに落として一日が過ぎてしまっていた。本当は琉成に会って話を聞きたいのに、それすらもできない。
琉成は、周りが思う程悪い奴じゃない。だから、自分にあんなことをしたのも、ちゃんと彼なりの理由があるはずなのだ。ちゃんと話がしたい。理由が知りたい。
できることなら、今のこの気持ちを伝えたい。何をされても、自分は琉成が好きだよ、と。
響が大きくため息を吐くと、部屋のドアがノックされた。響は慌てて目元を拭ってからそれに答える。すると、すぐにドアが開いた。
「会長ぉ、お加減どうですか? 熱まだありますか? 何か食べました?」
飛び込んできたのは浅井で、その後ろに湯沢の姿もある。
「ああ、わざわざありがとう。大丈夫だよ」
「全然大丈夫って顔してないですよ!」
ベッドの傍に座り込んだ浅井が心配そうに響の顔を覗き込む。湯沢は響の机の前に収めていた椅子を引き出し、それにどさりと腰掛けた。
「珍しいな、発熱なんて。風邪か?」
「ん……多分。ああ、体育祭の企画書、進んだ? 来週までに提出するつもりなんだけど」
「大丈夫、とりあえず倉田は元気になることだけ考えろ。千葉の面倒もみなくてよくなったんだし」
湯沢の最後の言葉に響は驚いて少しだけ体を起こした。
「え、今なんて……」
響の問いに答えたのは浅井だった。
「僕、一昨日先生に書類提出がてら言ってみたんです。千葉の世話、早めに切り上げられないかって。これから行事目白押しだし、会長の負担減らしたかったから」
「そう、なんだ……」
「だって、どう考えてもずっと一緒はずるい……じゃなくて、大変じゃないですか。会長だって迷惑してるって言ったら、先生も、最近の千葉の態度も良くなったしって了承してくれて、今日から部屋移動だったはずですよ」
言いながら浅井は向かい側のきれいなベッドを見やった。そういえば机の上の荷物ももうきれいになくなっている。殺風景なその場所に、響は呆然とした。もう、琉成とここで過ごすことはできない。
「教えてくれてありがとう、浅井。湯沢もわざわざ来てくれてありがとう」
「ん。とりあえず思ったより元気そうで安心したよ。帰るよ、浅井」
湯沢は頷いて立ち上がると浅井の襟を掴んだ。
「え、まだもう少し会長と居たいですぅ」
「ダメですぅ。大好きな会長にお前が負担かけてどうするんだよ。倉田、なんか用あったらスマホ鳴らせな」
浅井をずるりと引きずった湯沢に、響は頷いて、ありがとう、と答えた。湯沢と、それに引きずられた浅井が部屋を出て、響は大きくため息をついた。
「浅井の奴……なんてことしてくれたんだよ……!」
にこにこといつもの生徒会長の顔で、ありがとう、なんて言ったが、心の中では、お前のせいか、と詰め寄りたくて堪らなかった。
迷惑だなんて、誰も言ってない。もしそれが琉成に伝わったのだとしたら――そう思うと、響は居てもたってもいられなかった。
「琉成に会わなきゃ……」
響は痛む体を起こして立ち上がった。けれど、歩くことはできなくて、そこでへたり込んでしまう。
でもきっと、自分がもう琉成の世話をしない、迷惑だった、と第三者から聞かされた琉成の痛みはこんなものじゃなかったはずだ。もし、琉成が自分と同じように二人の生活が楽しいと感じてくれていたのなら。自分と同じように、気持ちを傾けてくれていたのなら。
もしも琉成が、自分に捨てられたと感じてしまったのなら、昨日のあの無慈悲な行為も納得がいく。
「琉成……」
動かない体に苛立ち、視界がじわりと滲んだ、その時だった。ノックもなく開いたドアに驚いて響が顔を上げる。
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