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「一人きりじゃない時間は久しぶりだった。
こんな状況だけど、心の中では楽しんでだんだろうね」
微笑むロリコンの口元を【砂】が覆う。
【なまくら坊主 後悔してください】
携帯電話を握りしめたなまくら坊主から言葉は発せられない。
鼻先まで沈んだ顔を、必死に手足をジタバタさせて何とか水面に出そうともがき、
【なまくら坊主 時間切れです】
非情な通告画面を見る事もなく、水を飲み込みながらも激しい呼吸と嘔吐をもって呼吸をしている。
【ロリコン 後悔してください】
砂を飲み込むわけにもいかないロリコンは、右手に持った携帯電話を掲げ、左手で口元の砂を掻き出しながら、
「短い時間だったから家族なんて呼べる仲ではなかったけど…… 」
掻き出しても掻き出しても、砂はロリコンの顔を埋め尽くそうとしてくる。
「そんな話あとで聞くから!
早く後悔を答えて」
美流玖は祈るように叫ぶ。
「僕は十年しか生きてないからよく分からないけど、本当の後悔なんて呼べるものはそんなにないんじゃない? 」
博士は目を細め、ロリコンの動きを見届けている。
「話もしなくていい、後悔もしなくていい!
とにかく今は息を溜めろ! 」
考え抜いた答えをソープは叫んだ。
「そうよね、なまくら坊主より長く呼吸していられたらいいんだから」
心愛はその答えに納得する。
【ロリコン 時間切れです】
額まで埋まったロリコンの解答時間が終了する。
【なまくら坊主 後悔してください】
「へっ……飲み込んだら……
終わり……の……お前……の負……け…… 」
沈む時間の長くなったなまくら坊主は、後悔など考えられる余裕はなく、完全に砂に埋もれた相手に勝利宣言をし、
【なまくら坊主 時間切れです】
大きく息を吸い込み肺と頬を膨らませ、目を見開いたまま沈んでいく。
【ロリコン 後悔してください】
砂の上に砂が降り注ぐ。
携帯電話だけが砂の上に取り残されている。
「ロリコンさん…… 」
負けを、死を感じさせる静けさに、美流玖の目から涙が溢れそうになる。
「泣くな!
まだ負けてない! 」
ソープは怒鳴り、
「携帯電話はまだ勝敗を告げてないよ」
博士が希望ある小さな声を発する。
水中で見開いた目を更に大きくするなまくら坊主。
その目線の先は相手のカプセル内、ロリコンが沈んでいるであろう中央の砂が小さな穴を開け始めている。
「あれ見て! 」
それに気付いた心愛が叫ぶ。
全員が注視すると、右手で掘り起こしているその穴はどんどん大きくなり、ロリコンの頭頂部、額、眉、目と徐々に姿を現していく。
よく見ると、周りの砂はどす黒く固まっている。
「ねぇ、あれって…… 」
全員がその事に気付いた時、鼻、口と顔全体が現れ確信に変わる。
「血だ……
血液で砂を固めたんだ」
乾き始めた血が口元を真っ赤に染めていた。
「でも、どうやって…… 」
「唇でも噛んだのかな? 」
「いや、それだけじゃあ砂をあんなに固めるなんて無理だろ 」
その疑問は口を開いたロリコンの姿を見て解ける。
顔全体が砂の上に出たロリコンは、口から一つの固まりを吐き出す。
「家族とは呼べないけど、仲間ではあるよね。
少なくとも私はそう思っている」
大きく微笑んだ時に見えた歯も真っ赤に染まっている。
「ロリコンさん! 」
「あんた、なんて事やってんだ! 」
美流玖やソープの心配の声。
チーム全員が目線を追った小さな固まりは、少し皺の入った指。
皆の心配の言葉が聞こえているのかは分からない。
ロリコンは埋もれる前にしていた話の続きを始める。
「仲間を私のせいで負けさせるわけにはいかない」
更に掘り起こして出てきたのは、五本指のない血塗れの左手。
「仲間に後悔なんてさせやしない」
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