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決着の画面が表示され、ようやく【砂】と【水】がゴボゴボと音を立ててカプセル底へと排出されていく。
「ロリコン!」
「ロリコンさん!」
開いたカプセルの入り口から倒れ込んで出でくる仲間の元へと皆が駆け寄る。
「早く手首を縛れ! 」
ソープの言葉に、すぐさまブラウスの袖を破ってロリコンの手首に巻きつけ縛る心愛。
「その巻き方じゃダメだよ」
博士は心愛からブラウスの裾を受け取り、左右をネジ巻きのように絞り込んで右手首を縛り、同じように素早く左手首も縛り付ける。
【チーム女神 3勝2敗 チームMan of Man】
無くなった指から流れ出ていた血は止まり、ロリコンの顔の血色も僅かだが回復した。
【チーム女神の勝利 チームMan of Manは敗退となります】
水を吐き出す事もなくぐったりと倒れたままのなまくら坊主を死神達が部屋の外へと連れ出して行く。
敗者の結末、それを想像し、帝王小学生はシクシクと涙を零し、傷んだ体とリンクするよう項垂れ諦めを見せるNo.1。
「ま、待てよ、俺は負けてねぇじゃねぇか! 」
暴れ叫ぶ筋肉マンも取り押さえられ、静かな呼吸音だけを響かせる死神達によってMan of Man全員が暗い暗い部屋の外へ。
「あいつら全員クズだったな」
ソープの小さな呟きは、言葉とは裏腹に「こんなゲームで死ぬんじゃないぞ」願望が込められているようだった。
【次の対戦相手の元へ向かってください】
部屋奥の隠し扉が開き、その奥には下へと続く階段。
「行こう」
美流玖が満身創痍のロリコンに肩を貸そうと手を伸ばすと、その手は振り払われ、
「私は行かないよ」
優しい微笑みが返ってきた。
「なんで…… 」
その問いが来るのは当然とばかりに、ロリコンは被せるように答える。
「私はあの男が、なまくら坊主が息を吹き返すのか、このまま死んで行くのかを見届けなくちゃならない」
「なんでそんな事しなくちゃならないのよ! 」
意味が分からない、と心愛が怒鳴る。
「もし、このままなまくら坊主が死んだなら、私は考えなくちゃならない」
「何を? 」
冷静に問い返したのは博士。
「私が死んだ方が上手くいったんじゃないかっていう疑念」
二十年前の事件と重ね合わせ、正解を導き出したいと言う。
「そんなの考えたってしょうがないじゃない!
お願いだから私達と一緒に…… 」
更に涙を流しながら訴える美流玖に、
「一緒に行ったって、私はあなた達の力になれない」
両手を心愛に向け、
「もう画面をタップする事も出来ない。
仲間の足を引っ張るなんて……
もう後悔はしたくないんだよ」
今までで最高の微笑みを見せる。
「わかった。
あんたはここに置いていく」
美流玖の肩をポンと叩き、先へ向かおうとソープは指示する。
「そんな…… 」
冷たい態度のソープを睨みつけると、
「何も出来ないお前が、ロリコンの意志を妨げるんじゃねぇ! 」
胸ぐらを掴んで引っ張り寄せられ、
「それに……
ロリコンを助けるためだ」
耳元での囁きに、渋々仲間と一緒に階段へと向かう。
いつまでも微笑み続けるロリコンを何度も振り返りながら、
「助けるってどういう事? 」
囁きの続きを尋ねる。
「あの手首のことだね」
博士は理由を分かっていて、美流玖にちゃんと説明すれば、と早足で歩きながらソープを覗き込む。
「あぁ、手首に縛った裾のおかげで血は止まったが、その先の手の甲はすでに青黒くなってきていた」
「腐れ落ちるって事…… 」
心愛も理解し、その心配に小さく頷いてソープは続ける。
「このまま放っておけば手首から先は腐れ落ち、そうなれば手が丸々無くなった手首の先からまた大量の血が噴き出す」
残酷な内容、仲間に死が迫っているという現実に、
「そんな……
じゃあ、どうすれば…… 」
美流玖は狼狽え尋ねるしかない。
「ここは廃墟といっても病院。
そして、ロリコンは勝者だ。
助かるには治療してもらうしかない」
ソープは唇を噛み締めた。
極々僅かな希望。
だが、それしか出来ない現状。
「これが今一番出来る後悔しない方法だ」
四人は細長く暗い階段を静かに降りていった。
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