見誤ることなく

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見誤ることなく

「なぁ、今まで負けた事ないって本当か? 」 細長く暗い階段を丁寧に降りながら、大きな背中に向かってソープが尋ねる。 「負けた事はあるさ」 振り返る事なく笑って答えるギャンブラー。 「なっ、嘘ついてたのか! 」 右手でポリポリと掻く頭を睨みつける。 「嘘なんかついてないさ。 言っただろ、独り者の俺は負けた事がないって」 背中からでも微笑んでいる姿が想像出来る。 「どういう事? 」 一番後ろを歩く心愛が尋ねた。 「高校を卒業してからありとあらゆるギャンブルをして負け知らずだった俺は、四十歳を前にして何十回と人生を送れるだけの大金を手に入れた」 ギャンブラーは階段を降り終え、それに付いていくように皆が周りに集まる。 「そんな時一人の女性と出会って子供が出来、結婚生活を送る事になった」 「独り者じゃないってこと…… 」 美流玖は疑問とも確認ともとれる聞き方をする。 「独り者じゃなかった時期があるって事だ。 家族を持った俺は、更に稼ごうとギャンブルにどっぷり浸かり、何十回もの人生過ごせる筈だった大金がたった一年で全部無くなっちまった」 「それでどうなったの? 」 心愛の質問に大きく笑い、 「金が無くなると同時に出ていっちまったよ。 家族のいなくなった独り者の俺は、また大金を稼ごうとこのゲームに参加したって訳だ」 現在は独り者だから負ける事はないという宣言に、 「少しホッとしてるみたいだね」 博士はニヤニヤしながらソープを見る。 「なっ、なにバカな事を…… 」 歯切れ悪い言葉を口にしながら顔を赤らめるソープ。 「ここだな」 隙間から灯りの漏れる部屋の前で立ち止まり、ギャンブラーはゆっくりと扉を開けた。
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