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恐る恐る扉から身を乗り出して確認してみるものの、
「な、なんだよ……
誰もいないじゃんか」
チカチカと点滅を繰り返す電球の灯りが、薄気味悪く続く廊下のどこにも死神の存在が無い事を理解させてくれた。
「行くよ!」
ソープを先頭にオペ室を目指し、ゆっくりと警戒しながら進んで行く。
「ねぇ、博士はどうしてこんなゲームなんかに参加したの?」
美流玖は優しく手を握ったまま尋ねた。
「……僕のパパはすごい研究をしてたんだ」
幼いながらに考え込んだ表情で、進路方向を見据えたまま答えた。
「パパが博士だったって事?
でもそれなら尚更なんでこんなとこに……」
美流玖はゆっくりと歩幅を合わせて博士の表情を窺う。
「パパの研究していた薬は男の人には効果抜群だったんだ。
でも女の人には……」
「女の人には効果がなかったのね。
でもそれがなんで……」
また同じ事を尋ねるのか、と博士はため息を一つ吐き、
「女の人にも効果が出るようパパは研究を続けた。
それで、やっと完成した薬をママで試薬したの」
ムスッとした顔で話を続ける。
「効果は最悪だった。
……ママは副作用で死んじゃった」
「えっ……」
予想外の話に美流玖は言葉を失う。
「ママを失って苦しんでるパパに、テレビやマスコミがさらに酷い言葉を浴びせたの」
何も言葉を返せない美流玖。
「世間からのバッシングにあったのね」
中途半端に終わらせられないと思った心愛が、代わりに話の先を促した。
「そう、それに耐えきれずにパパは自殺した」
「そっか……」
心愛も言葉を失い、美流玖は俯いたまま博士の手を強く握って前へ少しずつ進む。
気まずい雰囲気を察知してか、
「でも僕は落ち込んでるわけじゃないんだ」
博士はしっかりと前を見て話し続ける。
「パパが研究していた薬を僕が完成させる。
そのためにはお金もいっぱい必要なんだよ」
美流玖を見て微笑み、
「お姉ちゃんは、なんでこのゲームに参加したの?」
同じ質問を尋ね返した。
「私は……
私は変わりたかったの」
美流玖もようやく前を見た。
「変わりたかった?
どういう事?」
抽象的な言い回しを悩む博士。
「んーとね、私は普段守られてばかりなの」
美流玖は心愛を見て微笑み、再び博士に向けて話し出す。
「私は弱いの。
だから……
だから少しでも強くなりたくて、普段とは違う場所へ飛び込んでみようと思ったの」
博士に向けて笑顔を見せた。
「ふーん、なんかよく分からないけど、強くなれるといいね」
博士も笑顔を美流玖に返した。
「ねぇ、博士のパパや博士が研究しようと……」
どんな薬を作ろうとしているのか尋ねようとした時、
「着いたぞ!
扉を開けるからな!」
手術中と書かれたプレートの赤い点滅に照らされたソープが、後ろにいる全員に向けて叫んだ。
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