早朝の月曜日「おやすみなさい」

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

早朝の月曜日「おやすみなさい」

目の前にいるのが月曜日だと、瞬時に理解した。 明晰夢において、夢が夢だと分かるのと同じように、直感的に目の前の存在が月曜日だと悟る。 「いやいや。認めねえ。まだ日曜日の深夜24時だから。  俺の日曜日は、日が昇るまで終わらないから」 「いいえ。今日はもう月曜日の朝0時。  新しい朝だよ。爽快だね。ランニングにでも行く?」 「いかねえよ。  外見てみろよ。真っ暗。完全に深夜だぞ。  みんな寝てるこんな時間に出歩かねえよ」 俺の言葉を聞いて、月曜日が我が意を得たりとばかりに笑った。 「だよねえ。深夜だよね。みんな寝てるよね。  じゃあ、君もちゃんと寝ないと」 月曜日は何もしていない。 先程から笑顔で、一定の距離を保ち、友好的な態度を崩さない。 けれど、俺は月曜日にとてつもない嫌悪を感じた。 いや、正確には焦燥かもしれない。 逃げたくて逃げられない。 ただただ追い詰められる。 例えば、億万長者を夢見ても、酒池肉林を思い浮かべても、現世を捨て去ることに焦がれても。 現実からは逃げられない。 「月曜日からは仕事なんだから。  ちゃんと寝て、体調を整えないとね」 働いて、食っていかなければ、生きていけない。 その現実からは逃げられない。 月曜日の言葉に、俺の中に少しだけ残っていた日曜日という名の翼は引き裂かれた。 「ほらほら、ちゃんとパジャマを着て、電気もちゃんと消して、歯は磨いたね。  明日の仕事の準備もちゃんとできてるね。えらいえらい。  それじゃ、一週間の始まり、月曜日を祝して、輝かしい今日に備えて。  おやすみなさい」 何が今日に備えてだ。 これから一週間、俺は会社に拘束され続ける。 仕事のために生きてるわけじゃない。 人の人生はもっと自由であるべきだ。 そんな子供じみた、主語の異様にでかい主張が、腹の中を暴れ回る。 「おやすみ」 けど、そんな浮世離れしたわがままに何の意味があるというのか。 暖かな布団の中で、俺はふてくされるように横になる。 認めよう。今日は確かに月曜日だ。 月曜日が、泣きそうな顔をしていたのを、俺は見ていないふりをした。 勝手な理屈でぞんざいに扱っている自覚はあった。 そんな自分を見たくはなかった。 認めよう。今日は確かに月曜日だ。 くそったれな月曜日だ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!