早朝の月曜日「おやすみなさい」

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早朝の月曜日「おやすみなさい」

目の前にいるのが月曜日だと、瞬時に理解した。 明晰夢において、夢が夢だと分かるのと同じように、直感的に目の前の存在が月曜日だと悟る。 「いやいや。認めねえ。まだ日曜日の深夜24時だから。  俺の日曜日は、日が昇るまで終わらないから」 「いいえ。今日はもう月曜日の朝0時。  新しい朝だよ。爽快だね。ランニングにでも行く?」 「いかねえよ。  外見てみろよ。真っ暗。完全に深夜だぞ。  みんな寝てるこんな時間に出歩かねえよ」 俺の言葉を聞いて、月曜日が我が意を得たりとばかりに笑った。 「だよねえ。深夜だよね。みんな寝てるよね。  じゃあ、君もちゃんと寝ないと」 月曜日は何もしていない。 先程から笑顔で、一定の距離を保ち、友好的な態度を崩さない。 けれど、俺は月曜日にとてつもない嫌悪を感じた。 いや、正確には焦燥かもしれない。 逃げたくて逃げられない。 ただただ追い詰められる。 例えば、億万長者を夢見ても、酒池肉林を思い浮かべても、現世を捨て去ることに焦がれても。 現実からは逃げられない。 「月曜日からは仕事なんだから。  ちゃんと寝て、体調を整えないとね」 働いて、食っていかなければ、生きていけない。 その現実からは逃げられない。 月曜日の言葉に、俺の中に少しだけ残っていた日曜日という名の翼は引き裂かれた。 「ほらほら、ちゃんとパジャマを着て、電気もちゃんと消して、歯は磨いたね。  明日の仕事の準備もちゃんとできてるね。えらいえらい。  それじゃ、一週間の始まり、月曜日を祝して、輝かしい今日に備えて。  おやすみなさい」 何が今日に備えてだ。 これから一週間、俺は会社に拘束され続ける。 仕事のために生きてるわけじゃない。 人の人生はもっと自由であるべきだ。 そんな子供じみた、主語の異様にでかい主張が、腹の中を暴れ回る。 「おやすみ」 けど、そんな浮世離れしたわがままに何の意味があるというのか。 暖かな布団の中で、俺はふてくされるように横になる。 認めよう。今日は確かに月曜日だ。 月曜日が、泣きそうな顔をしていたのを、俺は見ていないふりをした。 勝手な理屈でぞんざいに扱っている自覚はあった。 そんな自分を見たくはなかった。 認めよう。今日は確かに月曜日だ。 くそったれな月曜日だ。
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