朝の月曜日「いってらっしゃい」

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朝の月曜日「いってらっしゃい」

ぴりりりりりりりりりりりりりり! アラームがなる。 昨日の朝はアラームはならなかった。 スマホを見るとやはり月曜日だった。 「おはよ」 目を開けると、月曜日がいた。 全身がけだるい。 熱があるかもしれない。 せきが少しある。 インフルだったら迷惑かけるし。 今はコロナもはやってるし。 そうやって、しばらく布団の中でスマホを見る。 上司に休暇の申し出をしようか。 ああ、でも、なあ。 電話をして、やりとりして、職場からはどう思われるだろう。 ずる休みだと思われるだろうか。 そう思うと、スマホをスワイプするのもおっくうだ。 「熱あるの?ちょっと、はかってみようか」 月曜日が、俺の額に手を当てた。 柔らかく暖かい。 優しい手だった。 俺のおでこよりも、月曜日の手のひらの方が暖かい。 「うん。平熱。よかった。  体が一番大事だもんね」 「そうだな」 実際問題。 年をとるごとに健康の大切さは身にしみる。 焼きにくい食い放題で胃もたれを起こしたり。 生クリームで気持ち悪くなったり。 ぎっくり腰で動けなくなったり。 駅の階段で息が切れたり。 きっと、こういうことは今以上に増えて行くに違いない。 体は大事だ。 けど、なら、精神はどうだろう。 週6日間を会社で過ごし、ゆっくり休めるのは祝日と日曜日だけ。 救いは仕事が工場の単純作業であること。 定時18時で仕事が終わり、残業が少ないことだろう。 いわゆるブラック企業に比べれば、はるかにマシな環境なのは知っている。 それでも、この閉塞感と無力感は耐えがたい。 死という最期までの時間が、じりじりと会社に消費されていく感覚。 何者にもなれず、何も残せない。 家庭でも持てば少しは違うのかもしれない。 そう考えるも、これ以上自分の時間を他人に削られることも、他人の人生を削ることも、自分自身が許せない。 結局は、部屋で目と耳を閉じて、せめてあっさり逝けるように祈るしかできない。 こんな精神状態で、生きている意味はあるのだろうか。 日曜日は、その現実から目をそらすことを許してくれる。 月曜日は、目をそらした現実へと俺を引き戻す。 「?」 月曜日は、悪意なくそこにいる。 きょとんと、起き上がってこない俺を、不思議そうな表情で見ている。 本来的な意味で月曜日も日曜日も違いはない。 どちらも一週間のうちの一日に過ぎない。 その一日に意味づけを行うのは、俺自身だ。 時計を見る。 朝の6時。 始業は8時だが、その前の準備を考えれば7時30分には会社に到着している必要がある。 今から着替えて家を出て6時20分。 途中のコンビニで朝食と昼食を買って、食べながら出勤すれば7時20分には会社に着く。 家から近いことが今の会社の最大の利点と言えるかもしれない。 あと、月曜日はコンビニによった時に一緒にジャンプを買う。 ジャンプの存在が唯一月曜日の良いところと言ってもいいだろう。 といっても、最近はジャンプで読めるものも減ってきている。 ワンピや、呪術、あとはまあ、あれだ、あの「あやかしトライアングル」を読んだり読まなかったりするくらいだろうか。 俺はのろのろと着替えると、財布と鍵をもって玄関を出る。 空から女の子が降ってくることも、トラックが突っ込んできて異世界に行くことも、超能力に目覚めることもない。 いつも通り、時間は6時20分だった。 「いってらっしゃい」 玄関に鍵をかけたところで、月曜日が声をかけてくる。 「月曜日も一緒にくるんだろ」 「そうだよ」 「じゃあ、なんでいってらっしゃい?」 「人を送り出す時は、いってらっしゃい。っていうものでしょ」 笑顔の月曜日。 「そうだな。いってきます」 地獄の始まりへ。 心の中で、そう付け足す。 今日は月曜日だ。
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