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「ど、して……あなたが、ここに……?」
かろうじて出せた言葉はそれだけで、頭の中は恐怖でいっぱいだった。寝る前に鍵はかけたはず、でもそんなことは大家である彼に関係ないのだと気付いた。
だからと言って若雲さんが私の部屋に勝手に入っていい事にはならない、これは間違いなく犯罪だ。
「今すぐに出て行ってください、警察を呼びますよ……?」
「ああ、美雛にはあまり効果がなかったのかな? まあそのほうが僕にとっては好都合だけどね」
やっぱりこういう時の彼とはまともに会話が成り立たない。まるで自分の世界にでも入り込んでいるかのように楽しそうに笑ってばかりで。
それでも私の頬に触れてくる手はゾッとするほど冷たくて、一瞬で全身に鳥肌が立った。
「触らないで、出て行って! どうしてこんな事ばかりするの、若雲さんっ」
「美雛を捕まえて逃がさないようにするためだよ。どんなに頑張っても僕からは逃れられない、君がそう理解して諦めて僕の手に落ちてくるまで」
そんな恐ろしいことを当然のことのように話す若雲さん、彼にとって私はそんな玩具のような存在なのだろうか? とても一人の人間として想われているとは思えない。
「そんなのお断りです、私は……若雲さんのお人形じゃない!」
そう強く言った瞬間、頬を撫でていた彼の手が首筋に移動しそのままそこに爪を立てた。一瞬だけ痛みで顔をしかめたが、怖かったのはその行動ではなく若雲さんの表情だった。
「彩夏、そう呼べって言ったよね? 駄目だよ、美雛は穂乃佳ちゃんを守りたいんでしょう?」
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