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Prologue
クスクスと、楽しそうに私を見て笑うその姿に自分は夢を見ているのではないかと思いたくなる。
……この人はこんな歪んだ笑い方をする人だっただろうか?
いいえ、少なくともさっきまではいつも通りの彼だったはず。それなのに、いったい何が起こったというのだろうか?
「どうして、こんな事を……?」
真っ暗な部屋の中、たった一つだけ置いてある椅子に座らされている私。手首足首を縛る細い紐、それが肌に食い込んで痛みを感じる。
微かにカーテンから漏れる日の光を受ける彼の口元に浮かんだ綺麗な笑みが何よりも恐ろしかった。
いつもは優しい人なのだ。亡くなった姉の子供の穂乃佳もいつも可愛がってくれて、私にも毎日のように「お仕事頑張ってね」と声をかけてくれていた。
それなのに……
「どうして……だと思う?」
そんなの分かる訳がない。いつもキラキラと輝いて見えた彼の瞳に映る闇に、私はただ怯えることしか出来なかった――――
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